浮力の導入実験器
1 指導の課題 
 学習指導要領の「浮力」は、ばねはかりにつるした物体を水中に沈めると、ばねはかりの指標が小さくなることから、浮力の存在に触れる程度の指導にとどまっている。
 しかし、教科書では、存在だけでなく、浮力を水中の物体の体積との関連で追究したり、さらには、水中での物体の上下表面の水圧の差として追究したりしてかなり深く扱っている。浮力は、子供にとって事実を追究できる興味ある教材であるが、昔のようにあまり深く追究すると、返って難解な教材になってしまう。「体積」との関連での考察と、「水圧の差」として考察の2面があり、子供にとっては理解しがたいことになっている。
 そこで、浮力を利用した先人の知恵(江戸城の石垣の「石」が、船につるされて運ばれたものがある。)を参考にして、浮力の存在に気付かせ、その後は、子供達の追究にゆだねられる導入実験を考えてみた。
2 工夫点
@ 「石」の代わりになるもの(おもり)は、フィルムケースを利用する。近年、フィルムケースが手に入りにくい状況にある。その場合は、適当なプラスチックケースでよい。(円筒でなくてよい)
A ケースの中には、紙ねんどを詰める。その1つにはナットを詰めおもさを変える。
 ※見た目には、ナットが入っているのがわからないようにする。
B @のおもりを2つ乗せたら沈む船としての容器を見つける。
3 材料
 フィルムケース
 紙ねんど 少々
 ナット(ステンレス)M10 1個
 ステンレス容器または
 アルミケース(パウンドケーキの型など)
1個.
 実験に必要な器具など
  水槽、輪ゴム、食塩
 
4 おもりの作り方と船の用意  
@ 右上の写真のように、一つのフィルムケースには、紙ねんどを空気が入らないように隙間なく詰める。※少しずつ詰めるのがよい。
A もう一つのフィルムケースには、M10ナット(約10g)を中に入れて紙ねんどを詰める。※ナットが見えないようにする。
  ※体積が同じで、おもさが違うおもりができあがる。フィルムケースを使っているので、子供には、体積が同じという意識は、はじめはない。(大事なポイント)
B おもりを2つ乗せると沈む容器(船)を用意する。  
5 活用法    
@ 「江戸城の石垣の石を運ぼう」という学習課題を与え、昔、江戸城の石垣の石を伊豆から海路で運んだ話しをし、どのようにして運んだかを追究していく。
A 子供は、はじめ、船におもり(石)を1つ乗せる。沈まない。もう1つ乗せる船が沈む。
でも先人は、船が沈まない方法で石を運んだことを再度説明する。
   ※それでも沈まない場合は、船員分としておもりのナットを乗せ、船が沈むようにする。
B ○海水だと沈まないと考える子供は、水槽に食塩を入れ、塩水にする。しかし、やはり、沈んでしまう。
○船の重心を考える子供は、石の置き方を工夫する。
  しかし、沈んでしまう。
 
C そのうち、ある程度、「浮力」について知識がある子供が、水中におもりを入れるようになり、やがてつるす。他の子供もまねていく。
※このような段階になったとき、今でも、石を運び出した港の海底には、縄のついた石が沈んでいることを知らせる。。 
D 水の中につるして運ぶと、大きな石でも運べることを、自由試行で知ると「なぜか」の強い疑問が生じ、追究の意欲を燃やす。そして、「水の中では、石はなぜ軽くなるのか」「軽くなるのは、石のどんなことに関係あるのか」など、浮力の大きさやその要因、理由へと1時間1時間の追求課題をつかんでいく。その過程で運んだ先人の知恵に驚き、感心することとなる