欧米鉄道最近の動向

−北米関係−

 


1.鉄道会社大型合併つづく(コンレールCNの争奪戦)


 一昨年のバーリント・ノーザンBNとサンタフェSFとの合併、昨年のユニオンパシフィクUPとサザン・パシフィック鉄道SPとの合併に続いて、今年の話題は昨年秋に発表されたCSXとCNとの合併(事実上CNの吸収)である。往年の名門中の名門ニューヨークセントラル及びペンシルベニア鉄道の多くの路線を継承しニューヨーク州周辺で独占的路線網を持つCNを、米国東部を支配する2巨人CSXとノーフォーク・サザンNSのどちらが合併するか予てから注目されていた。CNを吸収側した側の鉄道が東部で圧倒的に優位に立つからである。CNは米国中部から南部にかけて広い路線を持つCSXとの合併を発表した。CNがNSからの再三の要請を蹴ってCSXと結んだのは、CR社長を合併後の新CSX社長に就けるとの条件にCR側がよろめいたためとマスコミは報じた。
 NSは先のBN+SFの合併劇に待ったをかけた時にUPが行った以上の猛烈な合併反対の巻き返しに出た。CSXとCNとの合併メリットを唄うCSXの手による大々的なPRにも関わらずCNお膝元のCN従業員持株の3割近くが合併に反対に回り、さらにCSX提示より高額でのCN株買収作戦が功を奏し、CSXはCN株主過半数の買収工作に失敗した。
 しかし、この合併は今までの合併劇と異なり、これを機にCNの持つNY州付近での独占的路線の一部を解放する絶好の機会と見る荷主側及びNY付近への連絡運輸を行う関連鉄道鉄道からの強い支持がある。このため、合併後にCNからNSに解放する路線についての話合いが3社首脳間で持たれた。しかし、話合いは合意に達せず、連邦政府陸上輸送委員会の仲裁に持ち込まれた。CSXとNSとの戦いは全面的なNSの勝利で決着し、NSは今までアプローチのなかったNY州周辺及び北東回廊からアパラチア山脈の西側へのCSXルート(旧ボルチモア&オハイオ鉄道)の路線権を獲得した。
 この合併により、東部はCSX及びNS、西部はBNSF及びUPの寡占となり、残る一級鉄道は東部と西部の緩衝地帯にあるカンサスシティ・サザンKCS及びイリノイ・セントラルICだけとなる。はたして、東西の両横綱のうち、先に手をつなぐのはどちらだろうか?


2.ディーゼル動車の復活なるか


 米国で急激に伸びつつある通勤列車は全てディーゼル機関車のプッシュプル運転であるが、かってはバット社のディーゼル動車RDCが一世を風靡した時代もあった。最近営業を開始したダラス・フォートワース通勤鉄道はディーゼル動車の優れた点を評価し、米国では珍しくディーゼル動車の使用に踏み切った。もっとも、新製車両の生産体制が確立していないので、カナダVIA が使用していた13両の RDCを購入して液体式に変更し、車体の全面更新し実施した。
 一方、米国市場を狙うアドトランツ( ABB AEG)はデンマーク国鉄用に開発したIC3( フレックスライナー) のイスラエル国鉄向改良版の冷房強化型2 編成6 両をアムトラックとVIA 2 年契約で貸出し、既に北東回廊についで都市間輸送の多いロス〜サンジェゴ間でデモを実施し、大変な好評を得た。続いて、レノ、ラスベガス及びサンフランシスコ近郊で公開運転を行い、多くの地区で乗り残しがでる騒ぎとなった。今後、北米各地でのツアーが行われる。
 問題は米国鉄道の厳しい車端圧縮力等の厳しい基準を如何にクリアするかにある。しかし、近く開業予定のペンシルベニア州はフィラデルフィア〜ハリスバーグ間をアムトラックに委託しディーゼル動車による運転を行う予定であり、アムトラック自身もセントルイス〜カンサスシティ間で同様の計画を練っている。日車を含む多くのメーカーがこれに応札すると見られる。
 だが、動力分散が米国旅客鉄道の流れとは必ずしも言えない.東急製ECが多数活躍するニュヨークを起点に北に伸びる米国最大の通勤鉄道メトロノースは現行電車の更新を今後はプッシュプルELで行うことを決めた。当局の言によれば、機関車牽引列車から電車運転に代えた12年の実績をみると、電車の保守費はEL牽引にくらべ約倍近くかかるからである。

 

−欧州関係−

 


. 振子の話題・その1(各地で事故・トラブル多発)


1) ETR470
/シーザ・アルピーノのトラブル
 欧州の車体傾斜列車の大半を制圧したフィアットのETR460を複電圧化しギア比を増大させたETR470を用いて、スイス・イタリア国鉄及びBLSは共同で「シーザ・アルピーノ(伊の正式呼び方)」を昨年6月からミラノ〜スイス主要都市間に登場させに計画であった。しかし、アルプス越えルートに散在する半径 250300mをはじめとする急な反向曲線進入時の乗り心地に大きな問題があることがわかった。ペンドリノの振り角速度は最大 5 / 秒あり、100 km/hの高速でR300の曲線に進入すると振り遅れることが原因である。営業は大幅に伸び、昨年9月に漸く実施にこぎ着けた。その後の状況は反向曲線での乗り心地に若干問題は残るものの、良好で本列車は今年秋から北はチューリッヒ経由でドイツのシュツットガルトに延長され、さらに車両増備が整えば南はフィレンツェに延長される予定である。

2) DB
VT611 ダウン
 ドイツでは昨年6月から新たにザールブリュッケン〜フランクフルトルート等に運転中のアドトランツが開発したVT611 形液体式ディーゼル動車は営業開始直後からドア密閉不良等のトラブルが続発し、僅か数日で運転を全面取り止めた. その後、9 月に運転を再開したが、12月には運転中推進軸を落下させて燃料タンクが大破し、一歩間違えば、床を突き破って客室に飛び込む事態だったと伝えられる。トラブルの原因は明らかにされていないが、VT611 形は今年(1997)夏ダイヤでの再登板もならず、長期にわたり運休することが確実である。これによってドイツ鉄道DBがデンマーク国鉄DSB との間で取り決めたVT611 を使用してのコペンハーゲンへの乗り入れの話は頓挫した。DSB の駿足ディーゼル動車IC3は欧州でもスペイン、スエーデン及びベルギーが導入を決めているが、今回のDBの失敗により、ドイツがヒットラー時代と逆にデンマーク側からIC3 による侵略を受ける可能性が出てきた。
 ドイツ鉄道DBでは既にイタリア・フィアットの振子技術を使ったVT610 形振子ディーゼル動車が好調運転中である。今回の事故はDBがフィアット社の振子技術を袖にして、旧ABB +旧AEG 合作の準国産技術に乗り換えた直後に発生した。快進撃を続けるフィアット振子に比べ、旧ABB 系振子で輸出商談が成ったのは僅かに広九鉄道向のみに留まり、計画もオーストラリアが具体化しているだけで、輸出不振に悩む X2000をルーツとする旧 ABB系振子の信頼性に一段と陰を落とした感が強い。
 一方、これに対抗するかのように、フィアットでは400PS 二両編成の電気式ディーゼル振子動車を年末に完成させた。取り合えずは, 採用が決まったマレーシァ国鉄向け等にその技術を導入すると見られるが、非電化区間の高速化を計る各地に売り込むものと見られる。

3)
イタリア国鉄FS ETR460脱線転覆
 今年一月には、イタリアでミラノ発ローマ行き10両編成ETR460の前5 両が曲線で脱線し 8 名が死亡、40名が負傷した。当初、振子の何らかのトラブルと懸念されたが、記録式速度計を解析した結果、原因はR330m,105 km/hの制限箇所を162 km/hもの高速で通過したためと判明した。さらに、事故当時、運転室には所定乗務員2 名以外に3 名が便乗していたことが判明し、かねてから問題とされたイタリア国鉄FSの規律の乱れが明るみに出た。関係誌によれば、赤字に悩むFSが進めようとする1 人乗務化に安全面から組合強く反対している。しかし、実態はと言えば、2 人乗務の運転室では実際は1 人は新聞や雑誌を読みふけり、進路の注視は全く行っていない。当列車に乗車し、間一髪で命拾いをした前大統領の意向もあり、FSは未完備のAT P を早急に高速運転線区に取りつけることになった。


2.振子の話題・その2(仏国鉄SNCFの振子禁令撤回)


 仏国鉄SNCFは祖父と父とが鉄道員であった鉄道大シンパ、ミッテラン前大統領の下、国内では「TGV仏国版全幹網」による鉄道立国主義、海外ではTG V輸出による鉄道覇権主義を推進し,さらには隣国ドイツやイタリアの振り子ペンドリノやVT610 を嘲笑してその国内入国を拒み続けてきた。その後、「振子禁令」は緩和されたものの、最近まで振子は仏では事実上「長崎出島」居留民並の待遇を受け、国内は通過扱又は遠隔周辺の都市への乗入れのみに限定されてきた。SNCF の公式見解はカント不足量が周辺諸国の鉄道より少ないため,振り子は不要であるとされてきた。しかし、真相は1950年代から70年のガスタービンTGV 開発の間に長期にわたり実施した振子開発が結局のことろ失敗に終わり、FSの振子成功にコンプレックスを抱いたためとの説が有力である。
 政権の交代とともにSNCFに累積した赤字が露顕し、鉄道立国・覇権主義の大幅見直しを迫られ、TGV 建設は東線を除き、当分凍結された。運輸大臣に強い示唆で、これまで頑に導入を拒んでいた振子に仏国鉄線路を解放せざるを得なくなり、今年2 月にFSETR460を借用しパリ〜トゥールーズ間で試運転が実施された。当初、フィアット振子の全面導入と見られたが、伊の麾下となるのを潔しとししない誇り高いSNCFは自社の工場ですでにTGV 及び支線区用ディーゼル動車を種車にして電化・非電化双方の振子車両の試作を開始しており、振子もフィアットと技術提携したアルストムが独自色を出すものと見られる。振子車両は「TGV-PSE 」シリーズと名付けられる。


3.振子の話題・その3(SBB大量振子の導入)


 バーン2000(国民一人2000km/ 年の鉄道利用促進) を目標に都市間高速化を進めるSBB は大量の振子電車の導入を決定し、国内等の有力メーカ連合5 社に7 両組成の24編成振子列車を発注した。方式はSIG 提案の台車下心皿を空気圧で左右させることにより車体を傾斜させるシンプルな構造であり、SIGが94年からBRのマーク客車を利用してテストランを重ねてきた。このシステムには制御をアドトランツが、そして、台車はフィアットが一枚噛んいる。


4.振子の話題・その4(英国へも振子進出)


 英国民営化の一貫として行われた、路線権入札( フランチャイズ) が終わり、運転会社は車両リース会社からの貸出車両に各社独自のお化粧をさせ各地を走らせている。国内主都市間ネット( クロスカントリ・レール) の路線権は、過去に大幅な線路改良が計画されながらBR時代は実現に到らなかった幹線のドル箱ロンドンから西海岸線経由でグラスコー及びエディンバラに到る西海岸幹線WCMLについて、線路を所有するレールトラックが無線閉塞の導入を含む将来大幅な路線改良による高速化を打ち出した所から応札が殺到したが、結局、航空機業界の異端児バージン・レールグループが落札した。もっとも、レールトラックの路線改良の実施は大幅に遅れ気味で、約束違反と最近当局から厳しい警告が出されている。バージン・レールは落札以前から振子を導入してWCMLの高速化案を公表し、使用する振子列車の仕様をメーカーを募った。これに参入を狙うアドトランツは油圧方式をとるフィアット振子を危険視して新たに電気式振子を提案しているが、前述のようにドイツ鉄道DBでの手痛い失敗が暗いが影を落としている。一方、フィアットが英国に売り込む振子は独自の方式か、それともSIG から取り込んだ技術を転売するのか、それともさらに英国地場の会社と組むのか注目されている。この他の運転会社も振子を含む大量の車両新製を発表しており、新製が極端に少なかった地場の車両会社もようやく一息つくものと見られる。イギリスは約30年前に在来線の大幅高速化を目指したAPT(アドバンスト・パッセンジャー・トレインの略)開発の途上、中枢部の振子機構と液体式ブレーキで致命的なダメージを被り、ATPによる鉄道高速化の全面撤回を余儀なくされた。そして,民営化するまでその痛手から立ち直れなかった。

 

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