1.異常事態が起きた時に運転士に課せられた使命
大勢の乗客を乗せて走る電車の最前部から窓越しに運転台を見て、運転士のキビキビとした態度に好感をもった方もおられると思う。皆さん方が日常見ている運転士の操作は世間で考えている程に難しいものではない。運転士にとって最も難しい作業、それは事故などの異常事態が起きた時、事態を的確に把握し、迅速な措置を行うことである。
運転中の列車に異常が起きることは好ましいことではないが、現実にはあり得ることである。そして、このような事態が起きたとき、乗務員や駅関係者の対応が適切でなかったために惨事が起きた代表的な事例に、160名の方が亡くなられた常磐線の「三河島事故」(昭和37年発生)がある。昨年起きた福知山線事故では三河島事故のような併発事故は幸いにして起きなかったけれど、併発事故の防止や負傷された大勢の乗客に対する救護について、関係者の行動が問題になったことは周知の通りである。
列車に異常事態が起きたとき、関係者が適切な措置をとらなかったことによって事態を悪化させたとき、鉄道に対して厳しい非難が起きる。これ自体は仕方がないことではある。しかし、異常事態が起きたときの運転士の心情までも考え、そのような事態が起こるのを防ぐために、なすべきことは何かと言った建設的な評論に余りお目にかかったことがない。今回は、専門家の間でいろいろと議論がある異常時の運転士の対応について、お話させて頂く。
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