1.はじめに
ドイツ新幹線ICEがハノーバの近くのエシェデで「防振タイヤ」の割損により脱線して101名が死亡する大事故が起きてから、早いもので4年が過ぎた。この事故は新幹線にもしものことがあったらどんなに恐ろしい事態になるかを白日の下に曝し、世界屈指の新幹線網を誇る日本にも少なからぬ衝撃を与えた。当時は「日本の新幹線は大丈夫か?」、「新幹線は開業以来、人身事故が全くないのは大したものだ」など、いろいろは話がマスコミで話題になった。全くの余談ではあるが、新幹線の人身事故が開業以来皆無というのは残念ながら事実ではない。平成7年に三島駅で起きた人身事故が新幹線の安全神話に影を落としているからである。
三島事故は日本の新幹線安全神話を崩壊させた。しかし、この事故を契機として、さらに言うならば、前年の都営地下鉄浅草橋駅で起きた「ドア挟み」による地下鉄線初の乗客死亡事故に対する行政指導を受けたJRは、これに対応した研究を行ってきた。その成果をもとに、対策を実施する直前に不幸な事故が起きた。このような背景があったから、この事故に関しての民事訴訟で裁判所は事故発生時に既に実施準備段階あったJRのドア挟み対策について一定の評価を下し、ドア挟みの危険性を知りながら放置していたとか、対策が遅きに過ぎたとの判断(JR側の過失−安全対策実施義務違反)は示さず、これが被告JR側の過失割合を(6割に)低下させる一因にもなった。しかし、従来のドア挟み事故については、鉄道側に特別の問題があった場合を除き、過去の判例で過失割合が5割を超えた例は少なかったことから見ても、裁判所がこの事故に対し鉄道に厳しい判断を示したことには変わりがない。三島事故はこのように新幹線神話を否定する契機となった誠に残念な事故ではあったが、逆にこの事故を契機として新幹線の安全性は一層高まった。
表1.事故一覧
発生国
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事故名・発生場所・列車名
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発生日時
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事故種別
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事故概要
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事故速度(*は相対速度)
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死者
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遠因・背景
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英
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ポッタース・バー
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02.05.10
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列車脱線
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渡り線の分岐器が途中転換し、脱線した車両がホームに乗り上げ大破
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160
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7
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転轍機の転轍棒ボルト締め忘れ及び事故前日の検査でボルト緩み見落しと推定
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英
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グレート・ヘック
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01.02.28
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列車脱線
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陸橋から落下したRV車に衝突脱線した列車が対向貨物列車と衝突
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201
*225
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10
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英
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ハット・フィ-ルド
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00.10.17
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列車脱線
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レール・ゲージコーナ亀裂によるレール折損
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185
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4
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職務怠慢(亀裂多発に対する警告を放置)
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レール調整官からの前月の警告を無視
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英
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ラドブローク・グローブ
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99.10.05
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列車衝突
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見通しの悪い信号を冒進した通勤DCに高速ディーゼルHSTが衝突し、炎上
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143
*209
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31
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職務怠慢(信号見通し不良で事故多発箇所を放置し、乗務員指導も行わず)
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過去5年で8件の信号冒進.見通し80米
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独
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エシェデ ・ ICE
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98.06.03
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列車脱線
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タイヤ割損により脱線し衝突した陸橋の落橋により大破
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200
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101
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基礎技術涵養不足及び職務怠慢(タイヤの疲労強度検討不足-刑事追訴)
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タイヤ径862mmで疲労破断すること判明
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英
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サウス・ウオール
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97.09.19
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列車衝突
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信号冒進したHSTが貨物に衝突して炎上
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150
*241
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7
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ATS整備不良のまま運転継続
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伊
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ボッティセーリ・振子(ETR460)
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97.01.12
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列車脱線
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R330(制限105km/h)を157km/hで通過て、転覆
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157
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8
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操縦不良
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仏
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海底トンネル シャトル
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96.11.18
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列車火災
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トンネル内でローリ車から出火、運転手・乗員は避難通路に辛くも避難して全員無事
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140
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-
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ホリスチレン搭載ローリ車への放火と推定
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2.欧州で続発する高速鉄道の事故
日本では三島事故のような事故をきっかけとして鉄道の安全が向上するケースが多い。ところが、欧州ではドイツ新幹線で惨事が起きた後ですらも、高速鉄道で多数の死亡者が出る事故が続発している。つまり、毎年、多数の死亡者が出る大事故を高速鉄道が起しているということになる。その一覧を表1に示す。
東欧を含めた欧州全体の鉄道旅客輸送量(人キロ)は日本の鉄道のそれをやや上回る程度と推定される。従って、ほぼ同じ鉄道輸送規模を持つ日本で、このような大事故が毎年のよう起きたら大問題になるに違いない。さらに、問題なのは、これら事故原因の大半は日常行わなければならない基本的な作業を怠っていたために起きた事故、極論すれば「弛み事故」なことである。それらの事故の一部は既に「鉄道を斬る No. 17 − 英国鉄道民営化のための壮大な実験終わる −」で述べた。
事故はその後も止まることなく起きた。今年の5月には英国ロンドン近郊のポッタース・バーで4両編成電車が160キロで走行中に分岐器が途中転換して最後部車両が脱線してホームに乗り上げ、7名が死亡する事故が起きた。直接の原因は分岐器トングレールを左右に転換させる転轍棒の締付けボルトの緩みである。事故を起した分岐器は事故前日に点検が行われており、その時に異常があったとの記録はなく、その10日ほど前にも詳細な点検を行った際も異常は記録されていない。
事故地点の分岐器保守を行った会社は「前日の点検で異常が無かったのだから事故は妨害が原因である。」と主張し、事故調査機関HSEはその主張を鵜呑みにして原因は妨害により起きた疑いが濃いと発表した。しかし、保守会社の見解を危ぶむ意見や証拠が続々と発見され、会社の調査結果を丸投げした事故調査機関HSEの対応の拙さが明るみに出た。英国旧国鉄の鉄道施設を引き継いだ「レール・トラック」破産の引き金となったハット・フィールド事故(レールのゲージ・コーナ亀裂による重大事故)でも、HSEは同じような問題を起している。事故調査は現在、過去の再三にわたる調査の不手際に強い不信感を抱く警察当局の干渉の下に詳細な調査が進められている。
3.重大事故は氷山の一角 1)ドイツ新幹線ICE危うく転覆を免れる
最近の大事故の殆どは英国で起きているから、高速鉄道の事故は英国の「専売特許」と思われるかも知れない。しかし、これらは氷山の一角であって、あわや大事故寸前の事故は欧州高速鉄道の本場フランスやドイツでも起きている。近年起きたこの種の重大事故寸前の事故(インシデント)を表2に示す。
表に示すように昨年11月にドイツの東海道新幹線にも相当するベルリン〜ハノーバー間を結ぶ高速鉄道NBSで 制限速度80キロの渡り線に引かれたルートに高速列車ICEがATCの錯誤信号現示を受けて180キロの高速で進入した。幸いに地上に併置された信号の現示異常に気づいた乗務員が機転をきかして非常ブレーキをかけたために危うく転覆を免れた。原因は信号結線の誤りとされ、その後の調査で同じような誤った信号結線が同じ区間 で数例発見されている。
表2.インシデント一覧
発生国
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事故名・発生場所・列車名
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発生日時
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事故種別
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事故概要
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事故速度(*は相対速度)
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死者
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遠因・背景
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独
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ベルリン〜ハノーバNBS ICE
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01.11.17
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信号違反
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車内信号LZBの指示で180km/h 運転中に80km/hの渡り線に進入、機関士の機敏な措置で危うく転覆を免れる
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180
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-
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信号結線ミスによる錯誤現示
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仏
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ダックス TGV 在来線乗入区間
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01.10.31
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列車脱線
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レール折損による先頭車の除き全軸脱線
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130
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-
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未発表
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仏
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ユーロスター
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01.10.17
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列車火災
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カルダン軸の折損により先頭車が出火した。乗客を緊急避難させ、トンネル全面閉鎖
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|
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仏
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TGV 北線ユーロスター
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00.06.05
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列車脱線
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先頭機関車駆動装置釣り装置の落失し、後部台車と次位車が脱線
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250
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-
|
|
英
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海底トンネル入口・ユーロスター
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00.05.30
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車両故障
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先行ユーロスターが落失した駆動装置リアクションバーにシャトル機関車が衝撃
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不明
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-
|
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仏
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TGV南線
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93.12.21
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列車脱線
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旧坑道の陥没による道床沈下
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294
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-
|
|
2)ユーロスターの列車火災
「全ての高速鉄道はパリに通じる」とばかりに欧州高速鉄道の覇権制覇を狙って花の都パリから隣国国境に向けて高速鉄道網を着々建設して来た欧州の高速鉄道王国フランスも、あわやの事故を表に示すように昨年立て続けに起した。昨年10月の海峡トンネル内の列車火災事故では、煙が立ち込めたユーロスターから乗客は携帯品一切を車内に放置したまま辛くも脱出した。一歩間違えば、歌舞伎町のビル火災以上の大惨事になるところだった。欧州でオーストリアと並んで、今でも実質的には「国営鉄道」を維持するフランスの鉄道の運営は官僚統制の下にある。このため、鉄道事故調査も鉄道内部で専決処理され、重大事故を除いては原因の詳細が公表されることはほとんどない。
これも余談であるが、欧州鉄道の覇権を唱えて次々と手を打って来たフランス国鉄は最近ドイツの逆襲にあって苦戦を強いられている。フランスTGV規格車両「タリス」の古都ケルンへの侵略を許し、先の普仏鉄道戦争で一敗地まみれたドイツは、TGVに国土が蹂躪されるのを阻止するために着々と陣地を構築し、作戦を練って来たといわれている。陣地とはケルン〜フランクフルト間で今年8月に開業した新幹線の途中にある40パーミルの急勾配である。急勾配のある新線へのTGV系車両車両の乗入れが困難視され、フランス車両はドイツ中心部から事実上締め出される可能性で出てきた。この措置に激怒したフランスは、今年12月にベルギー国内で新規に開業する新線に合わせドイツ新線NBSを経由してブリュッセル等へ乗り入れる予定であった新型列車ICE3の乗入計画を中止させるべく、途中勾配区間での起動試験を独車両に義務づけるようベルギー鉄道当局に圧力をかけ、ベルギーを困惑させたといわれている。当然のことながら、今後ベルギー国内の新幹線網が完成した暁に予定されているドイツICE3による仏国内乗入れを、フランス鉄道当局は認めない可能性が高い。先のロシア航空機のドイツ領域での空中衝突惨事で明らかになった欧州航空路の超過密状態を一刻も早く改善し、鉄道復権を果たすためには、各国鉄道当局が互いの面子をかけての争いに血道をあげる暇など無いはずなのだけれども。
4.事故の背景にあるもの
表3.車両トラブル一覧
発生国
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事故名・発生場所・列車名
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発生日時
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概要
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故障概要
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遠因・背景
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独
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ICE-TD 振子ディーゼル
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02.02
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開業延期
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振子作用の不全など多数
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鉄道側は車両メーカに丸投げ発注。メーカ製造能力を越えた受注で杜撰な技術管理
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独
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ICE-T 在来線振子
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00.04
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一時全面運休
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脱線し、その原因が車体傾斜システムの欠陥と判明
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同上
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独
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ICE-1
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00.03
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一時全面運休
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動力車引張棒の亀裂
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独
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ICE-2
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98.09
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開業延期
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先頭Tc車の質量不足により強風時の転覆の危険性あることが判明し、最高速度を下げて使用
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同上
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独
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VT611 振子ディーゼル
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96.09
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再三の全面運休
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96-6の登場以来、推進軸落下などのトラブル続発で振子使用中止、全面運休及び速度120キロ(本来は160キロ)の規制、全面修復に4年
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DB初の丸投げ発注。メーカ側も振子の実績皆無なのに無理を承知で受注
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伊
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ETR470 スイス・独乗入れ振子
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96.02
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再三の全面運休
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カルダン軸トラブル、曲線での振り遅れ等定時率約50%。全面修復に2年
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アルプス山岳線での試験実施不十分
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英
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ユーロスター
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93.10
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開業延期
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英国内第三軌条線区内でのセクション通過時のノイズによる信号系統トラブル
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続発する高速鉄道事故の一因は、先の今年5月におきた英国ポッタース・バーで起きた分岐器の途中転換を含め、鉄道が本来なすべき必要最低限の手当すらしてなかったために起きたと推定されるものが多い。ポッタース・バーやハット・フィールド事故の原因に技術的な問題はなく、日常点検作業の不備、つまり、技量不足や保守管理不在によって起きた事故と推定される。
このような事故が多発するもう一つの原因として、技術管理上の問題がある。表3は最近、新製車両のトラブルにより営業運転が延期されたもの、あるいは営業を開始したものの、重度の車両不具合によりやむを得ず当初予定した計画を大幅に変更せざるを得なくなったプロジェクト例の一部を示す。一部と特にお断りしたのは、これらトラブルはごく一部であって、これ以外に登場した5指に余る新形式車の大半は初期故障によって、運休や旧型車両への差戻しを余儀なくされたからである。
この表から、十分な耐久試験などを経ずにいきなり営業運転に臨み、問題が出て慌てて運転を中止した車が少なからずあることがお判り頂けよう。その背景には、鉄道会社の技術陣が新たに導入した技術の本質や問題点を理解出来ないままに、激しい売り込み合戦で他社に勝ち抜くために未完の技術でさえも積極的に売り込むメーカ側の言を鵜呑みにして、未熟児をいきなり営業運転に持ち込む姿が浮かび上がってくる。特に、アドトランツ製ドイツ鉄道向ディーゼル振子車の立て続けのトラブルは、競合メーカのフィアットとの激しい売り込み合戦が背景にあったとは言え、「懲りない面々」の再三にわたる登場との感が強い。
新製車両のあまりの出来の悪さに、ICE事故で更迭された社長の後を襲ったドイツ鉄道の新社長メドーン博士はメーカの杜撰な品質管理を厳しく批判し、「今後DBは1年以上の長期試験に合格した車両だけを購入する」と宣言した。これに対し、大きなトラブルを起こしたICE-TDのメーカーであるシーメンスの社長シャーベルト氏は「トラブルの一因は鉄道側の受入準備不足にもある」と反論している。
以上述べたような状況からは、欧州鉄道の現場では「鉄道の日常業務を処理するに必要な高度な技量を失った鉄道従業員の姿」が、一方、鉄道の将来に向けての仕事に取り組むべき鉄道の計画部門では「新しい技術を十分に咀嚼する能力を失って、メーカへの依存の度合を強める技術陣の姿」がそれぞれ浮かび上がって来る。
私は日本の鉄道が全く同じ状況にあるとは思ってはいない。しかし、エリート技術者、強固なギルト、そして勤勉な従業員によって支えられてきたドイツ連邦鉄道DBの高い信頼性が、「鉄のカーテンの崩壊」、「東ドイツとの鉄道統合」及び「上下分割と民営化」という激震に見舞われ、あっと言う間に崩壊してしまった事実を関係者は認識しておくべきであろう。
時を同じくしてドイツの検察当局はエシェデのICE惨事の直接原因である防振タイヤの割損は、疲労限度を越えた領域でタイヤを使用したことを看過したことが背景にあると断定した。そして、問題が起きることを懸念した防振タイヤ・メーカが鉄道側に疲労耐久試験を要請したのに、これを拒否したドイツ鉄道の関係者2名を業務上過失致死罪で起訴したと伝えられる。
5.今後の動向
以上のように欧州の高速鉄道は混乱のなかにあると言ってもよいが、このような失態が見られるのも、恐らくは今年限りになるのではないかと推測される。というのは、最近まで国別の鉄道の縄張りの中で、自国の国鉄から手厚い保護を手を差し伸べられ、温室で育った鉄道関連業界は欧州統合によって国を越えての激しい競争にさらされるようになった。その結果、ご承知のように欧州の鉄道車両業界は合従連衡を繰り返し、大手メーカは僅か3系列に統合された。これらメーカは最近、軒並み自前で高速試験線を構築して、自社内での少なくとも160キロ以上の高速運転試験が出来る体制を整えたからである。このようにして欧州内メーカ側の品質向上策は進んでいるのに、鉄道内部における技量の維持や技術涵養のための具体的対策は、イギリスを除いてはあまり聞こえてこない。
なお、これは本稿最後の余談であるが、欧州各地でメーカ直営の高速実験線が建設されている実情を踏まえれば、日本でも鉄道界が協力して高速実験線を建設すべきと思うのであるではあるが、そのような声がほとんどないのは残念である。
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