1. 衝撃的な内容
早いもので,あの事故から5ケ月が経過した.警察による捜査に並行して運輸省事故調査検討会の手で行われてきた事故原因調査の中間報告が,この度,なされた.この調査は鉄道事故について「事故再発防止のために広い視点から調査する体制」が現存しない状況(このような状態を放置したこと自体も大きな問題なのではあるが)を改善するために,運輸省鉄道局長の「私的諮問機関」として最近設けられたものである.従って,調査について法的根拠があるわけではなく,調査メンバーに専任者がいるわけでもなく,更に限られた陣容で行われたものであるから,率直にいって内容や調査方法に問題があると思われる点も少なくない.とは言っても,従来に比べ鉄道事故についての行政のスタンスが大幅に改善されたことは評価すべきであろう.関係個所でろいろと論議を呼んでいる報告書の中身については,別の機会に論ずるとして,今回は,この報告書で指摘された事柄の裏に潜む問題を論じて見たい.というのは,報告では多くの鉄道を運営するために必要な技術水準が保たれているのかどうか疑わしくなるようなことが指摘されているからである.それらの問題のうち,車両及びレール・車輪間の問題二つについて述べて見よう.
2. 台車の旋回特性
初っぱなから専門的な話になって恐縮であるが,脱線した台車の「回転特性」(報告書は「台車空気バネの台車転向に対する剛性」とあり,以前は「台車の旋回特性」と呼んでいたこともある)の悪さが,脱線の要因になった可能性を報告書は指摘している.先ずは,この問題について述べてみよう.
2.1 台車支持方法と旋回特性
電車の長い車体が曲線を通過するとき,車軸が細長い車体と一体になっていると,急カーブは曲がれない.そこで,4つの車軸は2本づつ,前後二つの台車で束ねられ,カーブに入ると,図のように二つの台車で束ねられた車輪は曲線に沿って走れるように,通称「心皿」と呼ぶ台車中央部を中心として回転する.
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