ホロヴィッツ/スクリャービン・リサイタル

タイトルスクリャービン・リサイタル
作曲家アレクサンドル・スクリャービン
演奏ウラディミール・ホロヴィッツ
CDCBS 32DC 443

ブルックナー等の大規模な交響曲を聴くことが多い。大音量で聴きたいので、マンション居住という制限からやむを得ず大抵はヘッドフォーンを使用している。そういう音響の流れの中に没入したいという曲の他に、スピーカーから音を出して部屋をある雰囲気に染め上げてその中に浸りたいという曲もある。BGMにしてながら聴きするということではない。音楽が何か日常とは違った空間を作りその気分の中に浸るのが快い。例えば私にとってはモーツアルトの曲の中の多くがそうである。

このスクリャービン・アルバムは1972年のスタジオ録音を中心に作られている。収録曲は、収録順に 次の通りである。

 

A面、B面というのはLPの時のものである。勿論CDではそのような区別はなく続けて録音されている。LPではこのA面だけをその生み出す気分が好きで良く聴いた。CDになってからもop42-5までで止めることも多い。まだ薄明かりが残っている夕暮れに聴くにふさわしい、暗くメランコリックでそしてロマンチックな世界である。一曲一曲の演奏が素晴らしいだけでなく、選曲と配列が良いのが特筆すべきである。スタジオ録音であるがリサイタルのような趣がありアルバムとしての完成度が高い。これはホロヴィッツ自身によるのか、プロデユーサーの手腕か。ホロヴィッツが時々弾いた作品2-1や作品8-12は含まれない。ショパン風の前者は全体の雰囲気に合わないし、後者は前半最後を飾るにふさわしい曲として作品42-5と衝突してしまう。なお後半(ソナタ10番だけはライブ)の方は、気分を楽しむような安逸な聴き方はできない。特に最後の「焔に向かって」は鬼気迫る音楽、演奏であり、そればかりでなく人と一緒に聴くのがどこか後ろめたいような強烈な官能性がある。

「スクリャービン・リサイタル」というのは国内版の表題で英語の表記は"Horowitz plays Scriabin"である。手元には全く同じタイトルのCDが他に2枚ある。一つはBMGビクターのソナタ3番、5番、前奏曲集 等を含んだアルバム(BVCC5122)。もう一枚はSONYのSMK90445である。こちらは本アルバムの全録音のほかにソナタ9番「黒ミサ」や、作品2-1、作品8-12(それぞれ2種類の録音)の他、本アルバムと多分同時に録音されアルバムには採用されなかった作品65−3のエチュード、アルバムリーフ作品58等が含まれ資料的価値が高いもののアルバムとして聴いたときの魅力は比ぶべくもない。紹介したアルバムはタワーレコードオンラインでは廃盤になっている。SMK90445の方はまだあるようである。こちらを持っているという人は、プレイヤーのプログラム機能を利用して、前にあげている通りの選曲、配列順にして聴くことをお勧めする。

初稿2013/3/19