朝比奈隆のブルックナー交響曲第4番

タイトル交響曲第4番変ホ長調
作曲家アントン・ブルックナー
演奏朝比奈隆指揮
日本フィルハーモニー交響楽団(1980年5月)
CDTOWER RECORD NCS-631
(VICTOR HERITAGE COLLECTION)

朝比奈隆ブルックナー交響曲選集という4枚組みアルバム中の1枚。朝比奈隆は1980年の5月から10月まで月1回のペースで目白の東京カテドラル聖マリア大聖堂でブルックナーの連続演奏会を行った。4番、5番、7番、8番、9番を5つのオーケストラと演奏し、ビクターが録音して予約限定のBOXで販売(後で一部分売)した。CDになってからは5番と9番が第2次全集に採用されたが、CD化されていなかった他の3曲と「序曲ト短調」をまとめてアルバムとして出したものである。

私は当時企業の研究所に居て残業の管理等はわりと自由になる身だったので、毎回定時で仕事を終えて通った。電車を乗り継いで江戸橋駅まで。江戸橋駅から多少距離があるので文字通り駆けつけたのを憶えている。その第一回が日本フィルハーモニーとの第4番で、これは第4番に感動した初めての経験となった。特に終楽章がこんなに素晴らしい音楽だったのだと驚いた。私はまるで信心とは無縁な人間だし、ブルックナーが宗教音楽だとは全く思わないが、それでもコーダでは正面の巨大な十字架を見上げながら何とも言えない感情が湧き上がってきた。それまでは第4番というのはブルックナーの交響曲の中で唯一魅力の無い曲と思っていた。今から思えば単に良い演奏にめぐりあっていなかっただけだったのである。頭から降り注ぐような音響も印象的で、その後の連続演奏を大変楽しみに思ったものだが、後の4曲では残念ながら初回ほどの感銘を受けなかった。音の分離が悪く団子になって聞こえるのが興を殺いだように思う。この違いはオケの違いや曲のオーケストレーションの特徴等によるものだろう。席の位置によっても違ったかも分からない。後で送られてきたLPを聴くとどの曲もそのような不満は感じなかった。

このビクターの録音は、朝比奈隆の録音では時々悩まされるフラブラ(フライングブラボー、2チャンネル用語らしいが便利なので使わせてもらう)やフラブラすれすれの演奏後の拍手喝さいがきれいにカットされていて好ましい。同好の友人と、終わる少し前から準備していないとあんなにいきなり「ブラボー」とやれないよねと話しあった事があるが、実感である。感銘が強いほどしばらく動きたくないし、少し経ってからやっとゆっくり拍手ができる。「成田屋!」じゃあるまいし、何しに来ているのか。当日は会場に”録音するので注意”と言う趣旨の掲示があった記憶 がある。それでもこのアルバムに収録されている第7番の時に私のすぐ後ろでブラボーとやられてびっくりして飛び上がった。みると中学生か高校生の普通のおとなしそうな男子だったので、帰りがけに捕まえて「あまり早く声ださないようにね」と注意したら「すみません」と謝っていた。これも恐る恐る録音を聴くと綺麗にカットされていたので安心したものである。拍手やブラボーのカットはFONTECやOctaviaレコードも是非検討して欲しい。

話が逸れた。CDで聴いても、このアルバムの中では第4番が断然素晴らしい。朝比奈隆の第4番は2000年の大阪フィルとのライブ(EXTON OVCL-00313)がベストだと思うが、この録音はまた違った魅力がある。この演奏の日フィルは結構下手なのが目立つが、それが音楽を味わう上では全く気にならない。なによりも、楽しげに、はつらつと演奏しているのが手に取るように感じられる。ライブの楽しさを伝える録音としても一級のものだと思う。

こんな素晴らしい録音をどうして誰も取り上げないのか、私の感覚が変なのかと常日頃思っていたら、海外に居た。YahooのAnton Bruckner Clubにおけるneschoreさんの投稿である。"spine-tingling"と言う語のニュアンスが分からないが、goo辞書の”ぞくぞくする、わくわくする”という訳を信じると、私と同じように聴いている(この記事は読めなくなってしまったようです)。ちなみに投稿者のNeil E. Schoreさんは有機化学についての著書があるカリフォルニア大学デービス校の教授であり、朝比奈隆の2次全集と3次全集の比較をBruckner Journalに投稿したりもしている方である。

初稿2013/1/19
修正2013/1/19
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