タイトル | イエペス:バッハ、ヴァイスを弾く |
作曲家 | ヨハン・セバスチャン・バッハ |
シルヴィウス・レオポルド・ヴァイス | |
演奏 | ギター ナルシソ・イエペス |
CD | Deutsche Grammophon 00289 479 7316 |
私の持っているCDは最近手に入れた"Nariciso Yepes The Complete Solo Recordings"という20枚組のBOXでその中の一枚である。掲題のタイトルは持っているLPのもの。CD単発で出たことがあるのか調べてみるとあるにはあったが現在は売っていないようだ。
日本でロンドンレーベルで出ていたころの録音では、イエペスのバロック音楽というのはあまりイメージが無い。録音が無いわけではなかったが、サンスのスペイン組曲での派手なラスゲアードなど古楽とは別のものというように感じていた。
ドイツグラモフォンに移ってからは、リュート、ギターでのバッハのリュート組曲全曲をはじめいろいろ入れているようだ。今回BOXで初めて聞いたものも多いが、ロンドンレーベル(デッカ)時代とは見違えるくらい雰囲気がある。一方、カナリオスでの相変わらずのラスゲアードや、ムダーラのファンタジアでのアルペジオ、ダウランドのデンマーク王のガイヤルドのやたら早いパッセージの変奏など、演奏効果だけが目立ち首をかしげてしまう。どうも学術的なアプローチはしているが、古楽はそれほど好きではないのではなどと思ってしまう。
掲題の録音は、聴いたときにバロックらしい優雅な味わいに、びっくりしたものである。特にバッハのサラバンドとドゥーブル(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第一番からの編曲)、ヴァイスのホ長調組曲(現曲は二長調)は素晴らしい。
バッハの無伴奏ヴァイオリンのソナタ・パルティータからはセゴヴィアらによりたくさんの曲がギター用に編曲され演奏されているが、イエペスはバッハ自身がリュート(ことによるとチェンバロ)用に編曲したパルティータ第3番、ソナタ第1番のフーガを除いてほとんど演奏していない。おそらくこの録音に含まれるシャコンヌと、サラバンド/ドゥーブルだけが例外である。これは卓見だと私は思う。やはり元のヴァイオリンの優れた演奏にかなわないからである。バイオリンの一音一音のはらむ力にはいくらギターで音を足そうとかなわない。演奏する本人には良いだろうが、聴く方にとってはバイオリンで聴く方が良い。
しかしこのサラバンド/ドゥーブルは例外的に良い。曲想がギターにあっているのだろう。特にセゴビアは編曲していないドゥーブルを付すことで、とても聞きごたえのある曲となった。なおシャコンヌの方は、丁寧な演奏で進んでいたのが、アルペジオの部分で突然演奏効果の高い派手な曲になる落差が他のギタリストの演奏よりも甚だしく、よろしくない。先に書いたイエペスの演奏する古楽の欠点が出てしまっている。
ヴァイスのホ長調組曲はこの録音で初めて聞いた。多分現在でも少なくとも頻繁には演奏される曲ではないと思う。下手な演奏なら退屈になってしまうだろう。味わいによりそう感じさせない名演だ。しばし心地よい時間を与えてくれる。
他の収録曲は、バッハのリュートのためのハ短調プレリュードと、ヴァイスの有名なホ短調ファンタジア。
初稿 | 2017/6/29 |