デ・シーカ賛、大塚名画座のことなど

何の気なしにウェッブを見ていたら、デ・シーカの1967年作品「女と女と女たち」のDVDが出ていることを見つけた。しかも1000円程度の価格なのですぐ注文した。DVD化されているとは意外だったが、結構何度も発売されているようだ。シャーリー・マクレーンのファンがまだ多くいるということなのだろうか。

ヴィットリオ・デ・シーカは勿論「自転車泥棒」と「靴みがき」で映画史上最も深い足跡を残している巨匠の一人である。一方で、メロドラマや喜劇等いろんな映画を撮り散らかしている印象もある。多分将来も”ヴィットリオ・デ・シーカ全作品”みたいな企画は望めないだろう。そういうところがいかにも気取らない庶民派に思え、私は大好きである。

この映画はJR大塚駅の近くのビルに入っていた大塚名画座という小さな映画館で観た。併映はワイルダー「アパートの鍵貸します」で、観る者誰でもがシャーリー・マクレーンのファンになってしまいそうな2本立てだった。1978年当時交通が比較的便利なところに住んでいたので最終回を観た。その時間帯はすいていたため、くつろいでぼけーっとして鑑賞した。何かかとても幸せな気分になれた鑑賞体験の一つてある。

この映画館では、名作から珍作までほんとにいろいろな映画を観せて頂いた。デ・シーカでは他に、ニール・サイモン脚本、ピーター・セラーズ主演という「紳士泥棒 大ゴールデン作戦」というのも観た。ワイルダーは「ねえキスしてよ」「恋人よ帰れ我が胸に」。「お熱い夜をあなたに」は初公開当時私が住んでいた地方都市では大幅なカット版しか見ることができずようやく全長版を観ることができた。「赤い靴」「黒いオルフェ」「奇跡の人」等ここで初めて対面した名画も多い。文芸座、三鷹オスカー、高田馬場パール座等と共に洋画では意欲的な番組を組んでいて私が良く通った名画座の一つであった。
当時、映画館によってはまだ稀に客席でタバコを吸う不届き者がいたが、この映画館でそれをやると大変。映写中にもかかわらず、映写技師のおじさんが「タバコだめですよ!」と大声をあげながら客席に怒鳴り込んできたものだ。不届き者はそれ位しなきゃ撲滅できない。懐かしい。
このビルには地下にも鈴本キネマというこちらは邦画専門の名画座があったが、たまたまめぐり合わせが悪く結局一回も足を踏み入れずに終わったのが心残りである。

デ・シーカに話を戻すが、デ・シーカは短編も上手な人である。オムニバス映画「華やかな魔女たち」は三鷹オスカーで観たが、ビスコンティやパゾリーニら他のエピソードと比較して、デ・シーカ編のできが抜群だった記憶がある。やはりオムニバス映画の「ボッカチオ’70」ではフェリーニのイメージに圧倒されるものの、デ・シーカの重喜劇風一編が短編としてのまとまりや味わいではずば抜けていた。

この「ボッカチオ’70」は1962年の日本での初公開時、マリオ・モニチェリ監督編がカットされた3話バージョンで公開された。このためビデオソフト版で初めて完全版が日本に紹介されたかのような解説もあるが、1998年に三百人劇場で4話からなる[完全版]が公開されており、私もそれを観た。

「女と女と女たち」は7話の短編からなり、シャーリー・マクレーンが7変化を演ずる。一編一編がそれほど長くないこともあり軽いが、バラエティーに富んでいて楽しい。エピソードのできにばらつきがあるとか、構成がどうのなどと難しいことは言わずに、わははと笑いながら気楽に観て、それで観終わったあと何か心に温かいものが残る、そういう映画だ。そうはいっても最後の”snow"と題されたエピソードなどは珠玉の一編ではあるが。

初稿2013/5/21