マイ・フェア・レディの4K上映

ホームページを開始するとき映画については楽しいことだけを書こうと思った。実際は必ずしもそうはいかなかったのだが、今回はとうとう苦言ということになってしまうかもしれない。本当は書きたくないのだが、インターネットで検索してもこの問題について書いてある記事が見つからないのでしょうがないから書く。

TOHOシネマズ系の「午前十時の映画祭7」における「マイ・フェア・レディ」の上映のことである。なおTOHOシネマズを非難しようとする意図ではないことは最初に断わっておく。

この上映においては「4K上映」とうたわれている。4K素材による上映が、実際の映画館でどの程度の差を確認できるかという興味もあり観に行った。ところが始まって愕然とした、ビスタスクリーンよりやや狭い幅に上下黒味を入れてアスペクト比を確保した小さな画面。なんだこれは。まさか4Kデジタルリマスターのブルーレイ上映ではあるまいな。と思ってTOHOシネマズに確認するとシネマスコープサイズを上下に黒みを入れて収めた4Kのビスタ素材という回答が返ってきた。いわゆるレターボックスである。

ビスタフレームのアスペクト比は1:1.85。「マイ・フェア・レディ」のアスペクト比をIMDbで調べるとSuper Panavision 70によるネガが1:2.2、35mm版が1:2.35となっている。どちらのアスペクト比で収容されていたかまでは分からないが、いずれにしろ全画面の70%か80%しか使っていないことになり実質上せいぜい3Kあたりの品質ということになる。

解像度よりもレターボックス仕様による上映が嫌だ。上下か左右の少なくとも一方はスクリーンいっぱいに広がってくれないと白ける。画面が小さいと感じさせられてしまうからだ。特にミュージカルは嫌である。豪華な満ち足りた気分で観たい。

最後に映画館で「マイ・フェア・レディ」を観たのは旧日比谷スカラ座における70mm版上映であるかもわからない。だとするともう40年くらい前である。それでも70mm大画面に花々のタイトルバックが映り序曲が始まった時の幸せな気分を昨日のように憶えている。

このような上映が映画館で当たり前のように行われる事態にはなって欲しくない。そういえば1:2.2というと「トゥモローランド」がそうであり、その時もビスタ幅にレターボックスで上映された。アナモ方式で収容し左右に黒みを残せばよいと思うのだが、何かできないわけでもあるのだろうか。

もし4K素材が全てこのようなものであるのなら、シネスコ、70mmフレームのものは4Kでの上映を止めてほしいと思う。中には4Kでデジタルリマスターされたバージョンを観たいという人もいるかもわからないので、そういう(ごく)一部のファンのためにはスクリーン数を限るとか上映日を限るとかして、2Kによる通常の上映を主体にして欲しい。「午前十時の映画祭7」では「ドクトル・ジバゴ」「続・夕陽のガンマン」が心配だ。今回の「マイ・フェア・レディ」についてもスクリーンの前には掲示してあったとのことであるが、レターボックスの上映の場合はインターネット上で明示してほしい。そうでなければ4K上映となっていれば観に行かないということになりそうだ。

訂正と補足説明

どうも私のデジタルシネマに対する認識に誤りがあったようなので、訂正と(今のところ正しいと思っている)説明を補足したいと思います。

私の認識の誤りは、スコープ素材というのはスクイーズ(横幅圧縮)したもので、上映時にアナモフィックレンズを用いて左右広げて上映するものと思い込んでいたことです。幾つか調べたデジタルシネマの映写機にそのための機能がオプションとしてあり、てっきりそれを使用していると思ったのです。ところがデジタルシネマの規格ではそうなっていないようです。

デジタルシネマの規格であるDCI(Digital Cinema Initiatives)のDigital Cinema System Specification V1.2ではこの部分はSMPTE(米国映画テレビ技術者協会)の規格428-1を使うことになっており、その規格は会員以外は有料で購入しなければならず(規格なのに有料とはなんだ)、確認できません。しかしv1.0では記述があり、それでは例えば2Kを2048x1080と定義し、縦か横のどちらかを一杯に収録することとされています。その結果1.85:1のビスタ素材は1998x1080に、2.39:1のスコープ素材は2048x858に映像が収まっていることになります。つまり圧縮されておらず、スコープの場合は上下を空白にしてアスペクト比を達成しているようです。

ビスタ表示の素材にスクイーズしたシネスコ画面を収納するということも許されることになると思いますが、実際にそのようなことはやられていないようで、結局デジタルシネマのシネスコの上映は、画面全体を拡大して上下を切って上映しているものと思われます。

従って上に書いた、ビスタ素材へのシネスコ収容だと全画面の70%から80%しか使っていない、というのはスコープ素材でも同じであり不当な非難となりそうです。

また同時に、アスペクト比2.2:1の画面をスコープ素材ではなくビスタ素材に収納したい理由が想像できます。もしスコープ素材に収納した場合上下左右に画像が含まれないスペースができます。一方ビスタでは横幅いっぱいに収納が可能です。つまりビスタ素材に収納した方が使われる画素数が多くなるのです。つまりアスペクト比が2.39:1よりも縦長の場合はビスタ素材の方が原理的に画質が良いのです。

しかし、これはあくまでも供給側の少しでも良い画像で提供したい、残したいという観点からのメリットであり、見る側でこの良い画質のメリットを享受できるのはスコープ素材を拡大せずに上映する、IMAXデジタルや横幅の変わらない一部スクリーンに限られます。ほとんどの観客は上下左右に黒味が入ることによる不満の方をより大きく感じるのではないでしょうか。

ビスタ表示の素材にスクイーズしたシネスコ画面を収納というのが少なくともすぐに普及が望めないのであれば、4Kのシステムを多くして拡大による画質の低下を感じさせないようにし、2.39:1以下のスコープ作品もスコープ素材に収めるということを望みたいです。

初稿2016/6/3
追加2017/3/2
●訂正と補足説明