観た映画についての記憶というのはどういう形で残っているものだろうか。きっとそれぞれの映画の見方を反映するものだろうと思う。私の場合、面白かったとかつまらなかったとか、感動したとか、退屈したとか、どのような印象を受けたかは残るけども、それ以外は甚だ怪しい。次に残るのは印象的だったシーンである。
最初に忘れるのはストーリー。観た数日後にどういう結末だったかさえ忘れていることがあるからひどいものだ。演じていた役者を忘れることも多い。この場合は忘れるだけでなく他の俳優だったという間違った記憶が伴っている場合もある。
映画ノートをつければ良いのである。ある時期までは観た映画について、簡単な記録をつけていた。強く感じた点についてのメモなのでストーリ−や役者を忘れてしまっていることについては役に立たない。しかしながらいつ何を観たというだけでも今となっては貴重な記録である。
この記録は、ある時期から数年止めた。結婚したとか、仕事の関係で観るだけで精一杯だったという事情がある。これではまずいと思って日時と映画館、作品名だけの記録を再開した。この間の何の記録もない数年間が今となっては悔やんでも悔やみきれない記憶の空白期間となっている。
残っているリストを見ると、実はストーリーどころではなく観たことさえ忘れているのがいっぱいある。一度観たいものだと思っていた映画が、何だ観ているではないかというものもある。題名だけの記録になってからは、何これ、こんな映画あったっけという事になる。それで発奮して、パソコン上で気楽に記録できるプログラムを作った。プログラムといってもWindowsAPIネイティブでつくる気力はいまさらなく、Tcl/Tkのスクリプトだが、今のところ快調に使用している。
映画の記憶についてに戻る。印象的なシーンについて記憶していると書いたが、どうもその記憶は自分の思い込みで変形されたものかもわからないと自信を失わせる経験を最近立て続けに2度した。
一つは午前10時の映画祭で観たフランク・キャプラ「素晴らしき哉。人生!」。前に見たのは名画座か、テレビか、DVDもありはっきりしない。好きな映画なので何度か見ており、良く覚えているつもりだった。この映画のラストシーンだが、なぜかクリマスと記憶していて、何だクリスマスにぶつけないのか、東宝も無粋なことをするなどと思っていた。ところが今回見ると、オールド・ラング・ザインが流れる大晦日から元日なのですね。どうも天使やら、贈り物やらでクリスマスと思い込んでいたようだ。
驚いたのは、ベルイマン「仮面/ペルソナ」である。これは1977年に名画座ミラノ(後のミラノ3)で2度しか見たことが無く、それ以降テレビやDVDも含めてお目にかかっていない。モノクロ・スタンダードのスクリーンの向こうに宇宙的広がりを作り上げていて、生涯観た映画のベストの一本として強く印象に残っている。ずっと再見したかったのだが、このたびずっと無かったDVDが漸く発売され、さっそく買ったものである。
開巻から愕然とした。ベルイマンらしくない実験的とさえ言える強烈な編集シーンから始まる。え、こんなシーン観たことがないぞ。もう一か所、この映画は引き込まれて観ていると突然フィルムが乱入するシーンがある。このシーン、記憶では映写機なのだが、実際には映画の断片であり、記憶にある映写機のカットは冒頭のモンタージュの中にある。特に途中のカットはカット挿入時のシーンとショックの記憶がいまだありありと残っている。冒頭があのようなものだとここのショックもそれほどないはず。また冒頭のモンタージュには瞬間的ではあるが性器のクロースアップがあり、当時いくらベルイマンでもこのままでは上映できなかったのではないか、等いろいろ考えた結果、別のバージョンがあるのではないかと上映時間を調べてみた。
今回のDVDの実測は配給会社のロゴからエンドタイトルが消えるまで83分30秒。当時の名画座ミラノのパンフレットでは5巻(2258m)82分となっている。分からないのは岩波ホールのパンフレットに載っている作品リストで、1981年の「秋のソナタ」まではずっと81分となっているのが1985年の「ファニーとアレクサンドル」公開時には84分になっている。キネ旬KINENOTEでは82分。タイトルやロゴの時間を入れるかどうか、デジタル化での再調整でずれたとかの理由でも差が出る範囲に見え微妙な差だ。
するとimdbで85 min、80 min (Argentina)、83 min (USA)と表記されているのを見つけた。またフィルム長も2,320mとなっている。すると過去に日本で公開されたものはアメリカ版で、今回のDVDはオリジナル版ということか。情けないことに当時の言語が何だったか全く覚えていない。
こちらは私の記憶が改ざんされているのか、版違いなのか、その場合も果たして私の記憶が正しいのか、真実が分からず、フラストレーションが溜まったのみ。なお映画の素晴らしさは再確認。
初稿 | 2016/1/5 |