戦争と映画〜松竹の心意気

昔、松竹シネサロンで木下恵介「陸軍」(1944年作品)を観て、涙が滲んできて止まらなかった記憶がある。有名なラストシーンそのものより、強い情報統制のもと、陸軍省依頼という枠の中で、必死に反戦の思いを伝えようとした木下をはじめとするスタッフの思い、努力に強く心を打たれたのである。

この時、スタッフだけではなく、製作、配給を行った松竹という会社にも思いを留めるべきであったかも分からない。きなくさい今日この頃、ヒットするかどうかも分からない「日本のいちばん長い日」のリメイク(?)をあえて行ったからである。そればかりではなく、メイン館の一つ丸の内ピカデリー2で小林正樹「人間の條件」全6部一挙の上映を8月1日から7日までの一週間行った。会社あるいは会社の上層部に今の日本の状況を良しとしない活動屋精神が厳としてあることを信じたい。

「人間の條件」を実は私は初めて見た。梶という一人の人間の生き方を中心に日本人の加害者という立場も強く描いており、今作ったら自虐映画との批判が殺到するだろう。そう考えるとこの50数年、特にこの数年で日本がどう変わってしまったのか、改めて慄然とせざるを得ない。

私が観たのは平日だったからかも分からないが、私のような年寄がほとんどだった。果たして仲代達也の「若い人にも是非見て頂きたい」という思いが幾分なりとも実現できたのかは不明だが、それでも上映すること自体に意味がある。

8月にはその他にも太平洋戦争をテーマとした新作が公開された。塚本晋也「野火」、荒井晴彦「この国の空」。これらと原田眞人「日本のいちばん長い日」も加え、必ずしも成功しているとは見えなかったが、志は素晴らしいと思う。特に「日本の・・・」と「野火」はヒットしているとのこと。それだけで大変価値のある仕事である。

それにしてもかつて8.15シリーズで稼いでいた東宝はどうしたのだろうかと思う。映画「永遠の0」を私は100%否定するものではないが、戦争について深く考えさせるような映画ではない。せめて岡本喜八版「日本のいちばん長い日」を日劇で一週間上映するくらいはできなかったのか。

その岡本版(1967年)だがキネカ大森の名画座企画で上映されたので観に行ってきた。原一男「ゆきゆきて神軍」との2本立てという見事な企画。誰による企画なのか、ここにも映画と戦争について深く考える人の存在が伺える。 原「ゆきゆきて神軍」は塚本「野火」に感動した人は機会があればぜひ観てほしいと思う。その辺にいる普通のおじさんの口からでる証言だけで「野火」以上の地獄が表れる。

補足

東宝の戦後70年特別企画「杉原千畝 スギハラチウネ」について。正直この企画を知った時はうんざりした。勿論、杉原千畝は立派な人で業績が称賛されて当たり前と思う。しかし戦前に逆戻りしかねない様な今の風潮の中で、特別企画が「日本人は戦中でも良いことをした」という自画自賛というのは、東宝は本当にどうにかしてしまったのかと思った。この思いは今でも変わらないが、映画自体は悪いものではなかった。制約の中で、スタッフ、役者の皆さんは良く頑張ったと思った。ドイツやロシアの他国の暴虐非道を描くシーンは白けるものの、自分の良心に従って国や世の流れに反対するということの大切さを描くことができており、それなりに感銘を受けた。

初稿2015/8/29
補足2015/12/21