好きな映画と凄いと思う映画、「冒険者たち」のことなど

現役時代は結構異動が多かった。移った先では歓迎会があるのだが、自己紹介では趣味を話させられる。そこで映画が好きとかいうと、必ずよかった映画は?とか好きな映画は?とか訊かれる。これには困ってしまう。たくさん映画を観て、いろんな映画に感動したり、感心したりしてきた。その中で一本だけ上げるなどは本来できないのだ。むりやり搾り出して「8 1/2」とか「冬の光」とか答えても”何それ”としらけられるのが落ちだろう。そのうち「2001年宇宙の旅」とか「七人の侍」と答えるのが誰でも知っているし、自分に対しても嘘ではないので、無難ということで落ち着いた。

一方で、やっぱり自分にとっての最高の映画を数え上げたいという気持ちにも時々なる。そのような時、どうしても一緒にできない2系列があるように思っている。一つは完成度、達成した高さ、深さで凄いと感じる映画。もう一つは完成度などどうでも良い、とにかく好きという映画群である。これにはフェリーニ「アマルコルド」、デ・パルマ「愛のメモリー」、ペキンパー作品の一部とかレオーネ西部劇等の他、マリガン「おもいでの夏」みたいな言うのがこっぱずかしいものもある。レオーネでは「夕陽のガンマン」や「続夕陽のガンマン」に比べると大味なところもあるがそれでも「ウェスタン」が好きということでは一番だ。クラウデイア・カルディナーレが汽車で到着してクレーンアップして映される西部の町の情景、その後の馬車の道中の背景にそびえるメサ、遭遇する鉄道工事の情景等スクリーンの前で溶けてしまった。

そのような好きな映画群のなかで特に好きな映画の一本がロベール・アンリコ「冒険者たち」である。午前10時の映画祭というのは、近くの映画館ではやっていないし、遠くに行くには早すぎるということで今まで観たことはなかった。今回「冒険者たち」をやるというので久しぶりに観たくて早起きして行ってきた。記録を見るとこの映画を最初に観たのは1977年のニュー東宝シネマ1(現在の有楽座)でのリバイバル上映のときで、これまでは1981年に大塚名画座で観たのが最後である。30年以上経っている。当時メロメロで見ていただけに、果たしてどのように感じるか心配もあったが、大好きな映画の一本というのを改めて確認した。

さすがにひねくれてしまって、アラン・ドロンやリノ・バンチュラに感情移入し、青春の喪失感という甘い感傷に浸ることはなかった。それでも、全体に流れるどこか物悲しい叙情性が快く、昔このように映画を観ていたという気持ちを思い出した。とてもよくできている映画である。流れに無駄なところはさっぱりと省略し、必要なところはゆっくりと情感を持って描く。開巻のジョアンナ・シムカスがくず鉄を探すシーンや船の上で戯れるシーンなどだ。シムカスの髪に踊る日の光や、水しぶきのきらめきを何とも感じない人には無縁の映画である気もする。

驚いたのは今まで観た版では、エンドタイトルでドロンの歌が流れたのだが、今回は演奏のみだったことだ。こちらの方がずっと良いのでオリジナルだろう。

アンリコでは他に「ラムの大通り」が大好きだ。「若草の萌えるころ」はDVDでしか観ていないが、これも割りと好きだ。この人は本当は「追想」や「夏に抱かれて」のようなシリアスな映画を撮りたかったらしいが、それらはどうも感銘が薄い。作品リストを見るとこの二本の間に「二つの影の底に」、「愛する者の名において」という2作品があり、いずれも日本公開されているようだ。何故観逃がしてしまったのか全く記憶に無い。不思議。

初稿2013/8/13