2年とか5年とかという年金の時効ですが、1日や一月の差が重要な場合もあります。厳密に検討してみました。
まず関係する民法の時効の規定を列挙します。以下では民法145条を 民145のように引用します
(時効の援用) 第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない (消滅時効の進行等) 第166条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。 (期間の起算) 第139条 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。 第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。 ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 (期間の満了) 第141条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。 第142条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律 (昭和二十三年法律第百七十八号) に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、 期間は、その翌日に満了する。 (暦による期間の計算) 第143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。 2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年に おいてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた 場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
国民年金法
第102条
第4項 保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び死亡一時金を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
保険料の納付期限は翌月末であるから、民166、民140により翌月の翌月初日が時効の起算日であり、それから一年経過する日の翌日(経過した日)に時効が成立する。
(例)
10月分の保険料の納付期限は11月末なので12月1日の午前零時から時効が起算し、11月末日に期間が満了し12月1日午前零時に時効が成立する。ただし11月末日が日曜日や祝日であった場合は民142に従い期間が満了するのは12月1日になり、12月2日に時効が成立する。
正確には時効というのではないが、保険料の納付の時効と密接に関係する保険料免除の遡りができる期限について考える。
国民年金法
第九十条(一部省略) 次の各号のいずれかに該当する被保険者等から申請があつたときは、厚生労働大臣は、その指定する期間(<省略>)に係る保険料につき、既に納付されたものを除き、これを納付することを要しないものとし、申請のあつた日以後、当該保険料に係る期間を第五条第三項に規定する保険料全額免除期間(<省略>)に算入することができる。ただし、世帯主又は配偶者のいずれかが次の各号のいずれにも該当しないときは、この限りでない。
一 当該保険料を納付・・・
第2項 前項の規定による処分があつたときは、年金給付の支給要件及び額に関する規定の適用については、その処分は、当該申請のあつた日にされたものとみなす。
第九十条の二(一部省略) 次の各号のいずれかに該当する被保険者等から申請があつたときは、厚生労働大臣は、その指定する期間(<省略>)に係る保険料につき、既に納付されたものを除き、その四分の三を納付することを要しないものとし、申請のあつた日以後、当該保険料に係る期間を第五条第四項に規定する保険料四分の三免除期間(<省略>)に算入することができる。ただし、世帯主又は配偶者のいずれかが次の各号のいずれにも該当しないときは、この限りでない。
一 当該保険料を納付することを要しないものとすべき・・・
遡り期限を規定しているのは上記条文の委任規程に基づく以下の告示である。
厚労省告示(平成21年12月28日第529号、平成26年3月31日改正)
国民年金法第九十条第一項等の規定に基づき厚生労働大臣が指定する期間
第一条 国民年金法第九十条第一項及び第九十条の二第一項から第三項まで並びに国民年金法等の一部を改正する法律附則第十九条第二項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する期間は、これらの規定に基づく申請のあった日の属する月の二年二月(国民年金法第九十一条に規定する保険料の納期限に係る月であって、当該納期限から二年を経過したものを除く。)前の月から当該申請のあった日の属する年の翌年六月(当該申請のあった日の属する月が一月から六月までである場合にあっては、当該申請のあった日の属する年の六月)までの期間のうち必要と認める期間とする。
申請のあった月の2年2か月前以降、納期限から2年経過していないものということになる。 納期限は翌月末なので、通常は申請のあった月から2年1か月前までの分ということになるが、例外的に納期限が日曜日や祝日である場合は2年2か月前の分までさかのぼれる場合が出てくる。
(例)
12月に全額免除を申請した場合、申請のあった日の属する月は2年前の10月。2年前の10月の納期限11月末から2年を経過した日は12月1日になり10月までさかのぼることはできない。
ただし11月末日が日曜日または祝日の場合は民142に従い、12月2日が2年を経過した日になり、12月1日に申請する場合は2年前の10月まで2年2か月分遡ることができる。
なおいつまで遡り免除できるかには関係ないが、第90条の第2項は保険料納付要件において重要である。全額免除が認められた場合、全額免除は免除が決定された時ではなく申請されたときに行われたとする。
例えばずっと保険料を納めずにいて12月15日に一昨年7月から来年6月までの免除を申請し3月に認められたとする。この場合12月15日前に初診日がある場合は障害年金の特例による納付要件を満たさないが、12月15日以降の初診日であれば満たすことになる。
この規定は1部免除の場合は不要。なぜなら免除されている以外の部分を納付するまでは未納期間であるからである。
国民年金法
(時効)
第102条 年金給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利を含む。第三項において同じ。)は、その支給事由が生じた日から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。
(年金の支給期間及び支払期月)
第18条
第3項 年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであつた年金又は権利が消滅した場合若しくは年金の支給を停止した場合におけるその期の年金は、その支払期月でない月であつても、支払うものとする。
(支給要件)
第26条 老齢基礎年金は、保険料納付済期間又は保険料免除期間(第九十条の三第一項の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るものを除く。)を有する者が六十五歳に達したときに、その者に支給する。ただし、その者の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年に満たないときは、この限りでない。
年金給付を受ける権利は支給事由が生じた日から5年経過したときは消滅する。支給事由は例えば老齢基礎年金の場合、26条の「65歳に達した日」である。従って民140の初日不算入の原則からこの場合は65歳に達した日の翌日から5年経過したときに権利は消滅する。これに従うと、この間に請求しなければ権利は消滅してしまうことになる。
しかし、実際には「年金裁定請求の遅延に関する申立書」を提出すれば、5年を過ぎても時効の援用(民145)をせずに認める運用となっている。
支払期月ごとに支払われる年金については、支払期日は18条により偶数月であるので、その月の翌月の1日(民140)に時効が起算し、5年経過した日に時効が成立する。
死亡一時金の給付は死亡日の翌日(民140)から5年経過した日に時効が成立する。
初稿 | 2016/9/19 |