国民年金法における所得の計算法

国民年金法において、保険料の申請免除、および20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金の支給停止においては、所得の額を計算して基準と比較し該当が判断されます。この「所得の額」の計算法を調べました。税金における「所得」とは違うので注意が必要です。

なお、いろんな所得が出てきますが、それぞれの計算法については私も詳しくなく、複雑でもあり、説明していません。必要な場合は税金に対する解説書や所得税法等参照ください。


※なお以下は法令に従った記述になっています。一方、日本年金機構のホームページの記述では分かりやすさのためか法令とは異なる記述になっています。どこが違うかというと以下の通りです。
所得<=基準額であれば免除対象になるわけですが、所得税法上の同一生計配偶者、扶養親族がいる場合、法令(国民年金法施行令)上は基準額がその数によって加算され、一方社会保険料控除等は所得の方から控除する事になっています。一方機構の説明では、全て基準額に加算されるような書き方になっています。
本稿で社会保険料は控除され配偶者控除は控除されない等の説明になっているのはそのためです。注意お願いします。

目次

  1. 保険料の申請免除の場合の所得
  2. 20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金の支給停止の場合の所得

■略語一覧

法   :「国民年金法」
平16法:「国民年金法等の一部を改正する法律」平成16年法律104号
令   :「国民年金法施行令」
経過措置政令:「平成十六年度、平成十七年度、平成十九年度及び平成二十年度の国民年金
       制度及び厚生年金保険制度並びに国家公務員共済組合制度の改正に伴う厚生
       労働省関係法令に関する経過措置に関する政令」(平成十六年九月二十九日
       政令第二百九十八号)
租税条約等実施特例法:「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例
       等に関する法律」(昭和四十四年法律第四十六号。

1.保険料の申請免除の場合の所得

(1)全額免除(法第90条1項1号)、若年者猶予(平16法19条)、
障害者・寡婦(法第90条1項3号、4号)の場合(令第6条の11、経過措置政令第25条)

(1−1)所得の額
  所得の額は以下の合計とされる。
  ・総所得金額、退職所得金額、山林所得金額(地方税法313条1項)
    総所得金額
     給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、等(所得税法22条2項)
    退職所得金額(所得税法22条3項)
    山林所得金額(所得税法22条3項)
     ※繰越控除(地方税法313条8項、9項)は適用されない
  ・土地譲渡等に関わる事業所得の金額(地方税法附則33条の3第5項)
  ・長期譲渡所得の金額(地方税法附則34条第4項)
  ・短期譲渡所得の金額(地方税法附則35条第5項)
  ・先物取引に関わる雑所得の金額(地方税法附則35条の4第4項)
  ・国外の利子等の一部(「条約適用利子等の額」、租税条約等実施特例法3条の2の2第10項)
  ・国外法人の配当の一部(「条約適用配当等の額」、租税条約等実施特例法3条の2の2第12項)

(1−2)控除の額
  所得控除は適用されない。

(2)4分の3免除(法90条の2第1項)、半額免除(法90条の2第2項)、
4分の1免除(法90条の2第3項)、学生納付特例(法90条の3)の場合(令6条の12)

(2−1)所得の額
  全額免除等の場合に対する(1−1)と同じである。
  ただし総所得金額に繰越控除(地方税法313条8項、9項)の非適用については記述が無い。

(2−2)控除の額
  所得の額から以下が控除される。
  ・災害や盗難による損失額の雑損控除(地方税法314条の2第1項1号)
  ・医療費控除(地方税法314条の2第1項2号)
  ・社会保険料控除(地方税法314条の2第1項3号)
  ・小規模共済、確定拠出年金等の掛金(地方税法314条の2第1項4号)
  ・配偶者特別控除(地方税法314条の2第1項10号の2)

  市町村民税につき以下の控除を受けた場合、以下の金額が控除される
  ・障害者控除(地方税法314条の2第1項6号)
    27万円(特別障害者の場合40万円)
  ・寡婦控除(地方税法314条の2第1項8号)
    27万円
  ・ひとり親控除(地方税法314条の2第1項8号の2)
    35万円
  ・勤労学生控除(地方税法314条の2第1項9号)
      27万円

  以下は控除されないので注意が必要
  ・基礎控除(地方税法314条の2第2項)
  ・配偶者控除(地方税法314条の2第1項10号)
  ・扶養控除(地方税法314条の2第1項11号)
 

■例:ごく一般的な給与所得者の場合

   ・全額控除、若年者猶予の場合
      収入−給与所得控除
   ・4分の3免除、半額免除、4分の1免除、学生納付特例
      収入−給与所得控除−社会保険料控除

2.20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金の支給停止の場合の所得

20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金は前年の所得が政令で定める額を超えるとき
全額または半額が支給停止になることになっている(法36条の3)。

(1)所得の額(令6条の2第1項)
  所得の額は以下の合計とされる。
  ・総所得金額、退職所得金額、山林所得金額(地方税法32条1項)
    総所得金額
     給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、等(所得税法22条2項)
    退職所得金額(所得税法22条3項)
    山林所得金額(所得税法22条3項)
  ・土地譲渡等に関わる事業所得の金額(地方税法附則33条の3第1項)
  ・長期譲渡所得の金額(地方税法附則34条第1項)
  ・短期譲渡所得の金額(地方税法附則35条第1項)
  ・先物取引に関わる雑所得の金額(地方税法附則35条の4第1項)
  ・国外の利子等の一部(「条約適用利子等の額」、租税条約等実施特例法3条の2の2第4項)
  ・国外法人の配当の一部(「条約適用配当等の額」、租税条約等実施特例法3条の2の2第6項)

      ※令6条の2第1項には免除に関する令6条の11のように繰越控除
      (地方税法32条第1項8号、9号)の非適用についての記述はない。

(2)控除の額(令6条の2第2項)
  所得の額から以下が控除される。
  ・災害や盗難による損失額の雑損控除(地方税法34条第1項1号)
  ・医療費控除(地方税法34条第1項2号)
  ・社会保険料控除(地方税法34条第1項3号)
  ・小規模共済、確定拠出年金等の掛金(地方税法34条第1項4号)
  ・配偶者特別控除(地方税法34条第1項10号の2)

  道府県民税につき以下の控除を受けた場合、以下の金額が控除される
  ・障害者控除(地方税法34条第1項6号)
    27万円(特別障害者の場合40万円)
  ・寡婦控除(地方税法34条第1項8号)
    27万円
  ・ひとり親控除(地方税法34条第1項8号の2)
    35万円
  ・勤労学生控除(地方税法34条第1項9号)
    27万円

  以下は控除されないので注意が必要
  ・基礎控除(地方税法34条第2項)
  ・配偶者控除(地方税法34条第1項10号)
  ・扶養控除(地方税法34条第1項11号)
初稿2015/9/22
説明追加2016/8/10
訂正2018/1/5
●控除対象配偶者・扶養親族→同一生計配偶者、扶養親族
改訂2022/10/14
●令和2年の地方税法の改正に対応(ひとり親控除)