旧法が関わる年金の給付について

昭和60年改正前の国民年金法、厚生年金保険法を旧法と呼ぶことにします。また新法の施行日である昭和61年4月1日をただ”施行日”と呼ぶことにします。
旧法の老齢年金は基本的には大正15年4月1日以前生まれの人に適用されます。現在90歳以上の人です。それより若い人でも、第三種被保険者と女子の該当者や、障害がある人の若年老齢年金(いずれも旧厚生年金保険法)等で昭和61年3月31日以前に旧法の受給権を有していた人にも旧法が適用されています。
遺族年金は基本的には施行日以降の死亡には新法が適用されます。
面倒なのは障害年金で、初診日が施行日前に有るが障害等級に該当したのは施行日後という場合どうなるかとか、施行日前の障害と施行日後の障害との併合はどうするのかとか、いろんな問題が出てきます。

本稿は旧法の内容そのものについて調べたものではなく、主に次のことを内容とします。

熟知している者が解説するわけではなく、法令を読んでこうなるのではないかということをまとめたものです。読み違い、見逃している法令の存在等あるかもわかりません。お気づきの事がある場合、ご意見を頂く事が出来ればとてもありがたいです。

※なお、本稿では主として新旧国民年金法、新旧厚生年金保険法による年金について書いてあります。船員保険法による年金、共済年金については一部に記述はありますが、完全なものではありません。

目次

  1. 国民年金法による給付の適用について
  2. 厚生年金保険法による給付の適用について
  3. 旧法と新法による年金の併給
  4. 労働者災害補償保険との併給調整

■略語一覧

国年法:国民年金法
厚年法:厚生年金保険法
旧国年法、旧厚年法:昭和60年改正前の国民年金法、厚生年金保険法
新国年法、新厚年法:昭和60年改正後の国民年金法、厚生年金保険法
船保法:船員保険法
昭60改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年5月1日法律34号)
経過措置政令:国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令
      (昭和六十一年三月二十八日政令第五十四号)
平6年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(平成6年11月9日年法律第95号)

1.国民年金法による給付の適用について

(1)一般

(1)以下については旧国年法の老齢年金、通算老齢年金、寡婦年金の規定を適用する。
    (昭和60年改正法附則31条)
     ・大正15年4月1日以前生まれ
     ・大正15年4月2日以降生まれで施行日(昭和61年4月1日)の前日において
        旧厚生年金保険法による老齢年金等の受給権を有していたもの、
     ・死亡したこれらの者の妻(寡婦年金の場合)
(2)旧国年法の障害福祉年金については施行日において新国年法の障害等級に該当する
    場合、20歳前傷病による障害年金(法30条の4第1項)に該当するとみなし、
      障害基礎年金を支給する。(昭60改正法附則25条)
(3)旧国年法の母子福祉年金、準母子福祉年金については新法の遺族基礎年金を給付す
   る。(昭60改正法附則28条)
   ただし準母子福祉年金においては、妻以外の女性が遺族となり、孫、弟妹も加算の
      対象になるのでこれらのものを妻、子とみなす。
(4)(2)(3)を除いて、(1)も含めて旧国年法の給付は従前の例による
   (昭60年改正法附則32条)
   ただし、同条に定められている読替えや新法の規定が適宜適用される。
(5)昭和60年4月1日以降の死亡は新国年法の適用となり受給要件に該当する場合遺
   族基礎年金が支給される。この場合次の扱いとなる。
   (昭和60年改正法附則27条、経過措置政令44条)
  ・大正15年4月1日以前生まれであって、旧国年法の老齢年金、通算老齢年金の受
   給資格期間を満たしたもの、旧厚年法・旧船保法等の老齢年金、通算老齢年金の受
   給資格期間を満たしたもの、共済組合等の退職年金、減額退職年金、通算退職年金
   の受給資格期間を満たした者は、新国年法の受給資格期間を満たした者とみなす。
  ・大正15年4月1日生まれで旧厚年法、旧船保法、共済組合等の障害年金受給権者
   は新国年法の受給資格期間を満たした者とみなす。
  ・大正15年4月2日以降生まれで、旧厚年法、旧船保法の老齢年金、共済組合の退
   職年金、減額退職年金の受給権者は新国年法の受給資格期間を満たした者とみなす。
  ・大正15年4月1日以前生まれで、施行日以後の厚生年金の被保険者、共済組合の
   加入期間中に初診日のある傷病で初診日より5年を経過する日前に死亡した者、施
   行日前の厚生年金・船員保険の被保険者の間に発した傷病により初診日から5年
   以内に死亡した者は被保険者とみなす。

(2)障害年金

(1)同一の傷病による障害について旧国民年金法、旧厚生年金法の障害年金の受給権を
   有していたことがある場合は、新国民年金法の事後重症による障害基礎年金を支給
   しない。(昭60改正法附則22条)
(2)併合認定(新国年法31条)、従前の障害基礎年金が支給停止時に更に障害基礎年金
   を支給すべき事由が生じたときの扱い(新国年法32条)は、従前の障害年金が旧
   国年法、旧厚年法、旧共済組合等が支給する障害年金の場合も準用する。ただし従
   前の障害年金の受給権は消滅しない(新国年法31条2項の不適用)。(昭60改正
   法附則26条)。
(3)傷病が発生した日や初診日が施行日(昭和61年4月1日)前にあり、施行日後に
   障害に該当する状態になった、あるいは施行日以降に初めて請求したという場合に
   ついての新国年法の障害基礎年金の支給については、
   昭60改正法附則23条、経過措置政令29条、30条、31条、39条、40条
   で定められている。
    ・初診日に国民年金の被保険者であったもので65歳未満の者、厚生年金・船員
     保険・共済組合加入中に傷病を発した者については障害基礎年金、事後重症の
     障害基礎年金の対象となる。(経過措置政令29条1項)
    ・原則の障害基礎年金(初診日が昭和59年10月1日から昭和61年4月1日
     の間にあることになる)の保険料納付要件等の受給要件については、初診日に
     おける資格に応じて経過措置政令29条2項〜6項に定められている。
    ・初診日において国民年金の被保険者、または被保険者でなくて65歳未満の者
     についての事後重症による障害基礎年金における障害認定日、納付要件等につ
     いては初診日に応じて経過措置政令第31条において読替えが定められている。
    ・厚生年金の被保険者であった間に発した傷病による障害に対し、事後重症によ
          る障害基礎年金の規定を適用する場合における障害認定日、納付要件等につい
     ては初診日に応じて経過措置政令第32条において読替えが定められている。
    ・厚生年金・船員保険の被保険者である間に発した傷病による障害で初診日が昭
     和60年7月1日前にある場合、事後重症の障害基礎年金の請求は六十五歳に
     達する日の前日又は初診日から起算して五年を経過する日のうちいずれか遅い
     日まで認められる(経過措置政令30条)
    ・基準傷病の初診日が昭和61年4月1日前にある、初診日において厚生年金・
     船員保険の被保険者、共済組合の組合員については基準傷病による障害基礎年
     金の規定(国年法30条の3)が適用される。(経過措置政令39条)
    ・施行日前の傷病による障害については、初診日において、厚生年金・船員保険
     の被保険者、共済組合の組合員については20歳前傷病よる障害に基づく障害
     基礎年金は支給しない。(経過措置政令40条)
(4)平成6年11月9日前に旧国年法の障害年金の受給権を有していたことがある者が
   同じ傷病により、平成6年11月9日において障害等級に該当する、またはその後
   に障害等級に該当するようになった場合、65歳到達日前日までに障害基礎年金を
   請求できる。(平6年改正法附則4条2項)
(5)平成6年11月9日前に旧厚年法の障害年金の受給権を有していたことがある者が
   同じ傷病により、平成6年11月9日において障害等級に該当する、またはその後
   に障害等級に該当するようになった場合、65歳到達日前日までに障害基礎年金を
   請求できる。(平6年改正法附則4条3項)
(6)昭和61年3月31日以前の国民年金、厚生年金、船員保険の被保険者、共済組合
   の組合員である間に初診日がある傷病で、障害年金の受給権を有したことがない者
   であって、平成6年11月9日において障害等級に該当する、またはその後に障害
   等級に該当するようになった場合、65歳到達日前日までに障害基礎年金を請求で
   きる。この場合、20歳前傷病による障害に基づく障害基礎年金を支給する。この
   場合の保険料納付要件は、昭60年改正法附則8条1項に規定された旧国民年金の
   保険料納付済み期間と保険料免除期間が被保険者期間の3分の2以上あることとす
   る。(平6年改正法附則6条)
 

2.厚生年金保険法による給付の適用について

(1)一般

(1)以下の者については新厚年法による老齢年金は支給せず、旧厚年法に従って年金を
   支給する。(昭60改正法附則63条)
   ・大正15年4月1日以前生れ
   ・昭和61年4月1日以前に厚生年金法・船員保険法による老齢年金、共済組合の
    退職年金、減額退職年金の受給権を持つ者
(2)昭和16年4月1日以前生まれの者には、旧厚年法の脱退手当金の規定を適用する。
   (昭60改正法75条)
(3)旧厚年法による年金については従前の例による(昭60改正法78条1項)。
   この場合に準用する新法の規定や読替えについては昭60改正法78条の第2項以
   降に定められている。
(4)昭和29年5月1日において権利を有する遺族年金、寡婦年金、か夫年金又は遺児
   年金についても従前の例による。ただし受給権者が死亡してその遺族が新厚年法の
   遺族厚生年金を受給できるときはこの限りではない(昭60改正法78条1項)。
(5)次の者が施行日以降に死亡した場合、新厚年法による遺族厚生年金を支給する。
   ただし新厚年法の遺族の範囲(59条等)については昭60改正法72条2項、3
   項、4項に定める読替えをする。(昭60改正法72条、経過措置政令88条)
   ・旧厚年法、旧船保法による障害年金の受給権者(新厚年法58条1項3号該当)
   ・施行日前の厚生年金、船員保険法の被保険者であった間に発した傷病により、被
    保険の資格を喪失した後、初診日から5年を経過する前に死亡した者(新厚年法
    58条1項2号該当)
   ・旧厚年法・旧船員法による老齢年金の受給権者(新厚年法58条1項4号該当)

(2)障害年金

(1)同一の傷病による障害について旧厚年法の障害年金、旧国年法の障害年金の受給権
   を有していたことがある者については事後重症の障害厚生年金は支給しない。
   (昭60改正法附則66条)
(2)その他障害との併合による年金額の改定(厚年法52条4項)、その他障害との併合
   による支給停止の解除(厚年法54条2項ただし書き)においては、その他障害の
   傷病の初診日が昭和61年4月1日以前にあるとき、初診日において、国民年金の
   被保険者、国民年金の被保険者であった者で65歳未満、厚生年金・船員保険の被
   保険者、共済組合の組合員は対象とする。(昭60改正法附則78条7項)
(3)さらに障害厚生年金を支給すべき事由が生じたときの併合認定(新厚年法48条1
   項)、従前の障害厚生年金が支給停止時に更に障害厚生年金を支給すべき事由が生じ
      たときの扱い(新厚年法49条1項)は、従前の障害年金が、昭和36年4月1日
   以前に支給事由の生じた旧厚年法、旧船保法による障害年金の場合も準用する。
   ただし従前の障害年金の受給権は消滅しない(新厚年法48条2項は準用されない)。
   (昭60改正法附則69条第一項、経過措置政令85条)。
(4)昭和36年4月1日前に支給事由の生じた旧厚年法・旧船保法による障害年金を受
   給できる者に、さらに障害基礎年金、障害厚生年金を支給すべき事由が生じたとき
   は、旧厚年法の規定に従い年金額を改定する。(昭60改正法附則69条第2項、経
   過措置政令87条)
(5)旧厚年法・旧船保法による年金たる保険給付は、新厚年法56条1号の年金たる保
   険給付とみなし、受給権者に障害手当金は支給しない。(昭60改正法附則71条)
(6)厚生年金保険・船員保険の被保険者であった間に傷病が発生した日や初診日が施行
   日(昭和61年4月1日)前にあり、障害に該当する状態になった、あるいは施行
   日以降に初めて請求したという場合については、昭60改正法67条、経過措置政
   令32条、78条、79条、80条、82条、83条で決められている。
    ・施行日前に発した傷病による障害について、施行日後の初診日において厚生年
     金保険の被保険者であった場合、施行日前の厚生年金保険の被保険者であった
     間に傷病を発した場合は、新厚年法の障害年金、事後重症の障害年金、障害手
     当金の対象となる(経過措置政令78条1項)。
    ・初診日が施行日前にあるとき(昭和59年10月1日から施行日の前日までに
     あるとき)は、前々月までの一年間に通算対象期間(旧通算年金通則法4条1
     項)が6か月以上ある場合も保険料納付要件を満たすことにする(経過措置政
     令78条2項)。
    ・事後重症の場合の障害認定日と保険料納付要件については初診日に応じ経過措
     置政令32条に読替えが定められる(経過措置政令80条1項)
    ・初診日が昭和26年11月1日以前にあり、経過措置政令32条の表にない場
     合は事後重症の障害厚生年金は適用しない(経過措置政令80条3項)
    ・初診日が昭和60年7月1日前にある障害について新厚年法の事後重症による
     障害厚生年金の申請の期限は、「六十五歳に達する日の前日又は初診日から起算
     して五年を経過する日のうちいずれか遅い日」とする(経過措置政令79条)
    ・基準傷病の初診日が施行日前の厚生年金・船員保険の被保険者であった間にあ
     る場合は、基準傷病による障害厚生年金の対象となる(経過措置政令82条)
    ・初診日が昭和59年10月1日前にある傷病よる障害手当金の保険料納付要件
     は、通算対象期間が6か月以上であることとする(経過措置政令83条)
(7)旧厚年法・旧船保法による障害年金の受給権者に、障害基礎年金を支給する事由が
   生じたときは、併合した障害の程度に応じ旧厚年法の規定により障害年金の額を改
   定する。(経過措置政令86条)
(8)平成6年11月9日前に旧厚年法の障害年金の受給権を有していたことがある者が
   同じ傷病により、平成6年11月9日において障害等級に該当する、またはその後
   に障害等級に該当するようになった場合、65歳到達日前日までに障害厚生年金を
   請求できる。(平6年改正法附則14条第2項)

3.旧法と新法による年金の併給

(1)旧法年金と新法年金の併給については昭和60年改正法第11条、第56条に規定 
   されている。これ自体たいへん複雑であるが、一部が国民年金法20条、厚生年金
   保険法38条の読替え規定になっており、これらにさらに国民年金法附則9条の2
   の4、厚生年金保険法附則17条の読替え規定があり、極めて複雑である。
   以下の旧法による年金と、新法の国民年金法、厚生年金法の老齢年金、障害年金、
   遺族年金と併給については次のケースのみ認められると思われる。
    旧国年法
      老齢年金、障害年金、母子年金、準母子年金、遺児年金、老齢福祉年金
    旧厚年法
      老齢年金、障害年金、遺族年金
    併給が認められるもの(いずれも65歳以上に限る)
      老齢基礎年金と旧厚生年金法の遺族年金(昭60改正法11条5項)
      旧国民年金法の障害年金と老齢厚生年金(昭60改正法56条4項)
      旧国民年金法の老齢年金と遺族厚生年金(昭60改正法56条5項)
      旧国民年金法の障害年金と遺族厚生年金(昭60改正法56条5項)
      遺族厚生年金と旧厚生年金法の老齢年金の2分の1
                (昭60改正法56条6項)
(2)障害福祉年金から裁定替えされた障害基礎年金、母子福祉年金、準母子福祉年金か
   ら裁定替えされた遺族基礎年金については併給調整が異なっている。これらについ
   ては昭和60年改正法附則11条、56条では完全に規定されているようには思え
   ず、今のところ不明。該当する場合は注意が必要。
(3)旧国民年金法の寡婦年金については併給調整されない(昭60改正法11条1項)

4.労働者災害補償保険との併給調整

(1)障害補償年金、遺族補償年金、傷病補償年金と旧国年法、旧厚年法による障害年金、
   遺族年金が同一事由により支給される場合は、次の割合で減額される。
    (昭60改正法附則116条2項、3項、7項、8項、労災法施行令附則6,9)
旧厚生年金旧船員保険旧国民年金
障害遺族障害遺族障害母子年金等
障害(補償)年金0.740.740.89
遺族(補償)年金0.800.800.90
傷病(補償)年金0.750.750.89
休業(補償)給付0.750.750.89
(2)(1)で計算した額が、減額前の労災による給付の額から厚生年金法等による給付の
   額を差し引いた額(下限の額)を下回る場合は下限の額とする。
  (昭60改正法附則116条2項、3項、7項、8項、労災法施行令附則7,8,10,11,12)
初稿2015/8/27