年金の繰上げ受給について

ご意見、ご指摘歓迎します。特に文中に示した疑問点についてご教示頂ければ幸いです。

■法令略語一覧

国年法     :国民年金法
厚年法     :厚生年金保険法
昭和60年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年5月1日 法律第34号)
平成6年改正法 :国民年金法等の一部を改正する法律(平成6年11月9日年法律第95号)
平成6年経過措置政令 :国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関す
    る政令(平成6年11月9日政令第348号)
平成12年経過措置政令:平成十二年度、平成十四年度及び平成十五年度の国民年金制度
        及び厚生年金保険制度の改正に伴う経過措置に関する政令(平成12年3月31日
        政令第180号)

I.定額部分がある特別支給の老齢厚生年金を受けることが可能な場合以外

老齢基礎年金
 ・老齢基礎年金の繰上げは国年法附則9条の2にある。減額の計算は国年法施行令
  第12条の2にある。以下の通りとなる。
   老齢基礎年金は本来の額(付加年金含む)から以下の額が減額される
    (国年法附則第9条の2第4項)
     本来の額
      ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
       (国年法施行令12条の2)
 ・繰上げ請求した場合、寡婦年金の受給権は消滅する(国年法附則9条の2第5項)
 ・付加年金も同じやり方で繰り上げる(同法同条第6項)
      付加年金以外(振替加算)は繰上げされないことになる。
 ・昭和16年4月1日以前生まれの場合
   a)国民年金被保険者の場合繰上げできない(平成6年改正法附則第7条第1項)
   b)繰上げ支給されているものが被保険者になった場合支給停止になる(平成6年改正
    法附則第7条第2項)
   c)繰上げ時、繰下げ時の減額率、増額率が国民年金法施行令第12条の2とは異なる。
   (国民年金法施行令平成12年附則第2条)


老齢厚生年金
 ・老齢厚生年金の繰上げは厚年法附則7条の3(特別支給の老齢年金がない場合)、附則
  13条の4(報酬比例部分だけの特別支給の老齢年金がある場合)にある。
  金額は厚年法43条1項に示す額(報酬比例分)から次の額を減額したものとなる。
   特別支給の老齢年金が無い場合(厚年法施行令第6条の3)
    報酬比例分
     ×請求月から65歳達前月までの月数×0.5%
   特別支給の老齢年金が有る場合(厚年法施行令第8条の2の3)
    報酬比例分
     ×請求月から特例到達前月までの月数×0.5%
    (特例到達前月:本来定額部分の支給が開始される予定の前月)
 ・加給年金は65歳に達した翌月または65歳以降の240か月達成後改定時から支給
  される(厚年法附則7条の3第6項、第13条の4第7項)
 ・経過的加算がある場合は経過的加算の額に請求日の属する月から65歳前月まで  
  の月数に0.5%を乗じた分をさらに年金額から減額する
  (厚年法施行令第6条の3、第8条の2の3第2項と第3項。 繰上げ調整額が加算
   されない場合に相当することに注意)。
    【説明】条文の構成は次のようになっている
      厚生年金保険法43条一項の年金を繰上げて支給する
      定められた分を年金額から減額する(厚年法附則13条の4)
       経過的加算額がある場合さらに減額する
       経過的加算額を加算する
     従って、経過的加算額に対する減額は厚生年金保険法第43条1項(報酬比例  
     分)から減額され、経過的加算額は昭和60年改正法附則59条2項に従     
     い、減額されずに支給される(繰り上げた場合同法同条同項で除外されている
     厚年法附則8条等の老齢厚生年金ではないことに注意)。


両年金に関係した内容
 ・老齢基礎年金の繰上げ請求を行う時に老齢厚生年金の繰上げ請求ができるときは同時
  に請求しなければならない(国年法附則9条の2第2項)
    すでに報酬比例部分を受給している場合は老齢基礎年金のみの繰上げ申請が
    できることになる。
 ・老齢厚生年金の繰上げ請求を行う時に老齢基礎年金の繰上げ請求ができるときは同時
  に請求しなければならない。(厚年法附則7条の3第2項、附則13条の4第2項)
 ・老齢基礎年金または老齢厚生年金を受給しているものは以下が適用されない。
   a)障害基礎年金、事後重症の障害基礎年金、基準障害との併合による障害基礎年金、
   20歳前傷病による障害基礎年金、その他障害との併合による額の改定及び支給停
   止の解除、寡婦年金、任意加入(国年法附則9条の2の3)
   b)障害厚生年金、事後重症の障害厚生年金、基準障害との併合による障害厚生年金、
   その他障害との併合による障害厚生年金の額の改定及び支給停止の解除、障害基礎   
   年金の改定による障害厚生年金の改定(厚年法附則16条の3)

II.定額部分がある特別支給の老齢厚生年金を受けることが可能な場合

 繰上げが可能なのはまだ定額部分を受給していずこれから受給する場合であり、
 平成27年4月2日現在では次に限られる。
  (●1)生年月日が昭和27年4月2日から昭和29年4月1日の女子
  (●2)障害特例(厚年法附則9条の2)の対象者が請求した場合、長期加入特例(同
    法附則9条の3)、坑内員・船員特例(同法附則9条の4)の対象の場合で生年月
    日が男子は昭和36年4月1日以前、女子は昭和41年4月1日以前。


(●1)の場合
     報酬比例部分は60歳から、定額部分は60歳〜64歳から支給される。

(1−1)老齢基礎年金全部繰上げの場合
  老齢基礎年金を全部繰上げ(国年法附則9条の2)をする場合
  ・老齢基礎年金は本来の額(付加年金含む)から以下の額が減額される
   (国年法附則第9条の2第4項)
     本来の額
      ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
     (国年法施行令12条の2)
  ・昭和16年4月1日以前生まれの場合、厚生年金は全額支給停止となる。
   (平成6年改正法附則24条第2項)
  ・昭和16年4月2日以降生まれの場合、定額部分が支給される期間について、定額
   部分から基礎年金相当額(昭和36年4月1日以降で20歳以上60歳未満の厚生
   年金の被保険者期間を基礎とする額)が支給停止となる(平成6年改正法附則24
   条3項、昭和60年改正法附則62条2項)。
   すなわち定額部分は、定額部分が受給できる本来の年齢から経過的加算相当額のみ
   支給される。  
  ・加給年金額は定額部分が受給できる本来の年齢に達してから支給される(平成6年
   改正法附則19条、附則20条)
  ・その他老齢基礎年金の繰上げによる効果はI.参照

(1−2)老齢基礎年金一部繰上げの場合(平成6年改正法附則27条)
  ・老齢基礎年金の全部繰上げの請求(国年法附則9条の2)をしている場合はできない
  (平成6年改正法附則27条1項)
 ・老齢基礎年金の額
   老齢基礎年金の額から以下の額を引いたものに以下の減額率を掛けたもの
     (平成6年改正法附則27条3項)
    本来の老齢基礎年金の額
     ×請求日月から特例到達前月までの月数/請求日月から65歳前月までの月数
      (特例到達前月:本来定額部分の支給が開始される予定の前月)
    減額率=0.5%×請求月より65歳前月までの月数
   (平成6年経過措置政令第16条の2、第16条の3)
 ・定額部分の厚生年金の額(繰上げ調整額)
   定額部分から以下の額を引いたもの(繰上げ調整額)を請求翌月より支給する(平
   成6年改正法附則27条6項)
    本来の定額部分の額
    ×請求日月から特例到達前月までの月数/請求日月から65歳前月までの月数
     (平成6年経過措置政令第16条の4)
 ・65歳からの老齢基礎年金の加算額
   本来の老齢年金額
  ×(1−請求日月から特例到達前月までの月数/請求日月から65歳前月までの月数)
   (平成6年改正法附則27条4項)
 ・加給年金額は本来の定額部分受給年齢に達したときに加算される。
   (同法同条15項、16項)
 ・被保険者である場合、定額部分の本来の支給年齢に達したとき、およびその後の退職
  時改定で、被保険者月数が増えた場合は、差分の月数に相当する定額部分については
  減額されずそのまま繰上げ調整額に加算される(同法同条9項〜14項)
 ・一部繰上げにおける老齢基礎年については、厚年法附則11条の4、平成6年改正法
  附則24条3項の定額分の支給停止処置の対象とはしない。(平成6年経過措置政令
  第16条の5)

   
(●2)の場合
   老齢基礎年金、老齢厚生年金が60〜64歳から同時に支給される。
  
(2−1)老齢基礎年金を全部繰上げる場合
 ・老齢基礎年金は本来の額(付加年金含む)から以下の額が減額される
   (国年法附則第9条の2第4項)
     本来の額
      ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
     (国年法施行令12条の2)
 ・老齢厚生年金の額は本来の報酬比例部分(厚年法43条1項)の額から以下の額を減
   額した額となる。(厚年法附則13条の4)
    本来の報酬比例部分の額
    ×請求月から特例到達前月までの月数×0.5%
     (特例到達前月:本来厚生年金の支給が開始される予定の前月)
      (厚生年金保険法施行令第8条の2の3第1項)
 ・経過的加算(厚生年金保険法昭和60年附則第59条2項)がある場合はさらに次の
  額が減額される(厚年法施行令第8条の2の3第2,3項)。

   a)65歳到達前
     経過的加算額×
     特例到達月から65歳前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
    +経過的加算額×
     請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
     ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
      b)65歳到達後
     経過的加算額×
     請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
     ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
      (厚生年金保険法施行令第8条の2の3第2項、第3項)
        【説明】
          a=請求月から65歳到達前月までの月数
                   b=請求月から特例到達月までの月数
          B=経過的加算額
          α=b*0.5%
                   とすると65歳前については加算される減額分は
           B×(1-b/a)+B×b/a×α
          昭和60年改正法附則59条2項に従って経過的加算額は減額せず
         にそのまま加算されるので、上記報酬比例分からの減額分を合わせて、
          経過的加算があることによる実質的加算分は、繰上げ調整額分の中
         の経過的加算相当額を考慮し次の通りである。
                    B+B×(1−b/a)−{B×(1-b/a)+B×b/a×α}
            =B×(1−b/a×α)
         65歳到達後は繰上げ調整額がなくなることを考慮して
          B−B×b/a×α=B×(1−b/a×α)
                  と65歳前と同じ式になる。
          定額部分が存在しない場合に近づくb/a→1の場合はB×(1−α)と
         なり、また請求月と特例到達月が近づくb/a→0ではBとなりその間で
         はbの増加と共に減少する。
         以上より経過的加算分から減額すべき分を報酬比例分から減額し経過
         的加算分を減額せずに加算することでつじつまが合う。

 ・65歳まで本来の定額部分から以下の額を減額した額(繰上げ調整額)が加算される。
  (厚年法附則13条の5)
   本来の定額部分の額
    ×請求日月から特例到達前月までの月数/請求日月から65歳前月までの月数
       (厚年法施行令第8条の2の4)
   繰上げ調整額は厚年法附則11条の4が準用される。この場合経過的加算相当額の
   みが加算される(平成12年経過措置政令第6条)【疑問点1】                           
 ・加給年金額は本来の支給年齢に達したときに加算される
    (厚年法附則13条の4第7項)
 ・障害特例、長期特例の場合被保険者である月については、繰上げ調整額は支給停止さ
  れる。(厚年法附則13条の4第6項)【疑問点2】
 ・その他老齢基礎年金の繰上げによる効果はI.参照

   疑問点1:なぜか、厚年法附則11条の4の準用と経過的加算相当額のみの加算を
    定めている平成12年経過措置政令第6条では障害特例の場合のみについて定め
    られている。長期加入特例、坑内員・船員特例の場合も同じ扱いをしなければお
    かしいが、それを定めた規定が見つからない。 
   疑問点2:この場合繰上げ調整額のうち、経過定加算相当額は支給停止されないよ
   うにしないと、経過的加算がある場合の報酬比例年金からの減額が大きすぎること 
   になってしまう。基礎年金相当分のみと支給停止するか、または繰上げ調整額が加
   算されない場合として報酬比例分の減額分を計算しなおす必要がある。これに対す
   る規定が見つからない。本当にどこにもないのだとすると後者であろうか。

(2−2)老齢基礎年を一部繰り上げる場合
 ・老齢基礎年金は以下の通りとなる
  以下の額Aから以下の額Bを減額したもの(国年法附則9条の2の2第4項)
   A=本来の老齢基礎年金の額
    ×請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月の月数
     (特例到達前月:本来厚生年金の支給が開始される予定の前月)
   B=A×請求月から65歳到達前月の月数×0.5%
    (国年法施行令12条の6、12条の7)
 ・65歳に達したとき老齢基礎年金に以下の額を加算する
   本来の老齢基礎年金の額×(1−
     請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月の月数)
     (国年法附則9条の2の2第5項)
 ・老齢厚生年金の額は本来の報酬比例部分(厚年法43条1項)の額から以下の額を減
  額した額となる。
    本来の報酬比例部分の額
    ×請求月から特例到達前月までの月数×0.5%
     (特例到達前月:本来厚生年金の支給が開始される予定の前月)
      (厚年法施行令第8条の2の3第1項)
 ・経過的加算(昭和60年改正法附則第59条2項)がある場合は老齢厚生年金の額か
  らさらに次の額が減額される。
   a)65歳到達前
     経過的加算額×
     特例到達月から65歳前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
    +経過的加算額×
     請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
     ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
      b)65歳到達後
     経過的加算額×
     請求月から特例到達前月までの月数/請求月から65歳到達前月までの月数
     ×請求月から65歳到達前月までの月数×0.5%
      (厚年法施行令第8条の2の3第2項、第3項)
 ・65歳まで本来の定額部分から以下の額を減額した額(繰上げ調整額)が加算される。
  (厚年金附則13条の5)
   本来の定額部分の額
    ×請求日月から特例到達前月までの月数/請求日月から65歳前月までの月数
       (厚生年金保険法施行令第8条の2の4)
 ・障害特例、長期特例の場合被保険者である月については、繰上げ調整額は支給停止さ
  れる。(厚年金法附則13条の5第6項)((2−1)の疑問点2を参照)
 ・一部繰上げの老齢基礎年金を受けることができても繰上げ調整額は支給停止されない。
  これには厚年法附則11条の4に対する読替え規定のようなものが必要に思われるが
  見つかっていない。

III.繰上げ受給時の老齢厚生年金の年金額の改定

以下の場合退職時改定(法43条3項)は行われない(厚年法附則15条の2)
  ・本来の老齢厚生年金を繰上げ受給している場合で65歳に達するまで
  ・特別支給の老齢厚生年金を繰上げ受給している場合で、本来の受給開始年齢
   に達するまで。

 老齢厚生年金を繰上げ受給している被保険者は次の場合に年金額の改定が行われる。
  ・特別支給の老齢厚生年金を受給できない者の場合、65歳に達した翌月。
   (厚年法附則7条の3第5項)
  ・特別支給の老齢厚生年金を受給できる者の場合、本来の受給開始年齢に達した月の
   翌月(厚年法附則13条の4第5項)、また65歳に達した日の翌月(同法同条
   第6項)
  ・上記年齢到達後の退職時(厚年法附則15条の2)

 繰上げ調整額を持つ年金の受給者(長期加入特例、障害者特例、坑内員・船員の特例)
 の繰上げ調整額の改定
  報酬比例部分の改定と同様に以下において改定される
   ・本来の受給開始年齢に達した月の翌月(厚年法附則13条の5第2項、第3項)
   ・本来の受給開始年齢に達した月の翌月以後は退職時に報酬比例部分の改定と同時
    (同法同条第4項)
初稿2015/1/15
全面改稿2018/2/16
一部修正2019/7/3
●III.節に誤字と不適切な表現があっため