老齢年金の繰上げ・繰下げ制度の変遷についてまとめました。
■法令の参照
文中 国年法 :国民年金法 厚年法 :厚生年金保険法 昭和60年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年5月1日法律第34号) 平成6年改正法 :国民年金法等の一部を改正する法律(平成6年11月9日法律第95号) 平成12年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(平成12年3月31日法律第13号) 平成16年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年6月11日法律104号) 年金強化法 :公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の 一部を改正する法律(平成24年8月22日法律第62号) 令和2年改正法 :年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律 (令和2年6月5日法律第40号) なお本文中の改正法の施行日については、改正法の中で繰上げ・繰下げに関連する規定の施行日 である。
●国民年金法 繰下げ(28条)、繰下げ(28条の10)が定められていた。繰上げ減額率、繰下げ増額率 は現在と同様政令で定められる。当時の政令は参照できていないが、[1]によると以下 のとおりである。 繰上げ減額率 60歳:42%、61歳:35%、62歳:28%、63歳:20%、64歳:11% 繰下げ増額率 66歳:12%、67歳:26%、68歳:43%、69歳:64%、70歳:88% [1]「旧法公的年金の解説」健康と年金出版社、2011年 ●厚生年金保険法 繰上げ制度は勿論ないが、繰下げ制度も規定されていない。
●老齢基礎年金 繰下げ(国年法28条) ・老齢厚生年金の繰下げと同時に申し出なければならないとされた 繰上げ(国年法附則9条の2) ・受給権者が被保険者である間は支給停止とされた。 つまり厚生年金に加入していて第2号被保険者の場合は支給停止される。 ●厚生年金保険法 繰下げ(厚年法44条の3) ・老齢基礎年金の繰下げと同時に申し出なければならないとされた ・65歳未満の特別支給の老齢厚生年金には適用しない(昭和60年改正法附則12条) 繰上げ ない(特別支給の老齢厚生年金が60歳から支給されていた) 繰下げ増額率、繰上げ減額率については、当時の政令で確認できないが、率だけ見ると、旧法を 踏襲したように見える。
●老齢基礎年金 繰上げ(国年法附則9条の2) ・受給権者が被保険者である間は支給停止する規定を削除。 ■昭和16年4月1日以前生まれについては、以下のようにすることが定められる。 (平成6年改正法附則7条) a.国民年金の被保険者である場合繰上げできない。 b.繰上げた年金の受給権者が被保険者である間は支給を停止する。 ■老齢基礎年金の繰り上げと特別支給の老齢厚生年金との関係が次のようにされる。 (平成6年改正法附則24条) 〇昭和16年4月1日以前生まれ ・厚生年金加入中でなく繰上げた老齢基礎年金を受給できるときは特別支給の老齢厚生年金の全額 を支給停止する(第2項)。(厚生年金加入中である場合は繰上げできない。) 〇昭和16年4月2日〜昭和24年4月1日生まれの男子、 昭和16年4月2日〜昭和29年4月1日生まれの女子 ・老齢基礎年金を全部繰上げをすると、定額部分が支給停止される(第3項) ■昭和16年4月2日〜昭和24年4月1日生まれの男子、 昭和21年4月2日〜昭和29年4月1日生まれの女子 については老齢基礎年金の一部繰り上げができるようになった(平成6年改正法附則27条) 実質上特別支給の老齢厚生年金の定額部分が繰上げできるようになったと言える。
●老齢基礎年金 繰下げ(国年法28条) ・老齢厚生年金の繰下げと同時に申し出なければいけないという規定が削除(老齢厚生年金の繰下げ 制度が無くなったため) 繰上げ(国年法附則9条の2) ・老齢厚生年金の繰り上げができる場合は同時に請求しなければならないとする(老齢厚生年金に 繰上げの規定ができたため) ■施行令が改正され繰上げ減額率、繰下げ増額率が変更された年単位ではなく現在と同じ月単位に なった。 ただし昭和16年4月1日以前生まれ(施行日において61以上)の場合は従来通りとされた (施行令改正令附則2条) ●老齢厚生年金 繰下げ(厚年法44条の3) ・繰下げが廃止された(44条の3の削除)。 理由ははっきり分からないが、厚生年金加入が70歳まで延長され60代後半の在職老齢年金の制 度ができたからと想像される。 平成14年4月1日以前に老齢厚生年金の受給権を持った場合は、従来通り繰り下げ可能 (平成12年改正法附則17条) 繰上げ ・繰上げが可能になった。 昭和36年4月2日以降生まれの男子、昭和41年4月2日以降生まれの女子、 昭和41年4月2日以降 生まれの坑内員・船員特例対象者(厚年法附則7条の3) 昭和28年4月2日〜昭和36年4月1日の男子、 昭和33年4月2日〜昭和41年4月1日生まれの女子 (厚年法附則13の4) 昭和33年4月2日〜昭和41年4月1日生まれの坑内員・船員特例対象者 (厚年法附則13条の4、13条の5) ・老齢基礎年金の繰上げと同時に請求しなければならないとされた ■繰上げ減額率は施行令において老齢基礎年金と同様に定められる。 (昭和16年4月1日以前生まれについては繰上げは無いので、国民年金法における特例は無い。)
●老齢基礎年金(施行 平成17年4月) 繰下げ(国年法) ・65歳以降に他の年金給付、老齢・退職以外の被用者年金の受給権者となった時は 繰下げできないとしていたものを、それが66歳以降であれば受給権者になった時に申し出たもの とみなすことにした。 ・老齢厚生年金の繰下げと一緒に申出なければいけないという規定は復活しなかった。 ■平成17年4月1日前に他の年金給付、老齢・退職以外の被用者年金の受給権者を持つときは、 繰下げはできない(平成16年改正法附則17条) ●老齢厚生年金(施行 平成19年4月) 繰下げ(厚年法44条の3) ・繰下げが復活 ・老齢基礎年金の繰下げと一緒に申出なければいけないという規定はなくなる。 ■平成19年4月1日前に本来支給の老齢厚生年金(厚年法42条の規定による老齢厚生年金)の 受給権を持つ者には適用しない(平成16年改正法附則42条) ■増額率は老齢基礎年金と同じ(厚年法施行令) (平成16年4月1日以前生まれは施行日において66歳で繰下げは適用されないので、増額率の 特例は不要。)
●老齢基礎年金 繰下げ(国年法28条) ・70歳後に繰下げを申し出た時は70歳に達した日に繰下げを申し出たとみなす。 ■平成26年4月1日前に70歳に達した者が、支給繰下げの申出をした場合は、平成26年4月 1日に申出があったとみなす。(年金強化法附則6条) ●老齢厚生年金(厚年法44条の3) 繰下げ ・受給権を取得してから5年を経過した日後に繰下げを申し出た時は5年を経過した日に申し出た とみなす。 ■平成26年4月1日前に5年を経過したも者が、支給繰下げの申出をした場合は、平成26年4月 1日に申出があったとみなす。(年金強化法附則25条)
●老齢基礎年金 繰下げ(国年法28条) ・75歳まで繰下げ可能とする。75歳に達した日後に繰下げを申出た場合は75歳に達した日に 申出たものとみなす。(施行 令和4年4月1日) ・75歳に達した日後に老齢基礎年金の請求をし、かつ繰下げを申出なかった場合は請求をした日の 5年前の日に繰下げの申出があったものとみなす。ただし80歳に達した日以後である場合を除く (第5項新設)(施行 令和5年4月1日) ■75歳までの繰下げの規程は令和4年3月31日において70歳に達していない者に適用する。 (令和2年改正法附則6条) ■第5項の規定は令和5年3月31日において70歳に達していない者に適用する (令和2年改正法附則7条) ●老齢厚生年金 繰下げ(厚年法44条の3) ・受給権を取得してから10年を経過した日まで繰下げ可能とする。10年を経過した日後に繰下げ を申出た場合は10年を経過した日に申出たものとみなす。(施行 令和4年4月1日) ・10年を経過した日後に老齢厚生年金を請求し、かつ繰下げを申出なかった場合は請求をした日の 5年前の日に繰下げの申出があったものとみなす。ただし受給権を取得してから15年経過した日 以後である場合を除く(第5項新設)(施行日 令和5年4月1日) ■10年までの繰下げの規定は令和4年3月31日において、受給権を取得してから5年経過してい ない者に適用する(令和2年改正法附則8条) ■第5項の規定は令和5年3月31日において、受給権を取得してから5年を経過していない者に 適用する(令和2年改正法附則11条) ■■なお、65歳後に老齢年金の受給権を取得した場合の、老齢基礎年金の繰下げ規定(昭和60年 改正法附則18条)についても年金強化法、令和2年改正法の老齢基礎年金の繰下げ規定の改正に合 わせて改定されている。
初稿 | 2021/5/18 |
改訂 | 2022/8/19 |
●平成16年の老齢基礎年金の記述追加 | |
●年金強化法、令和2年改正を追加 | |
誤り訂正 | 2022/11/13 |
●平成6年改正法 女子の繰上げ対象生年 |