年金全額支給停止の効果

自分、あるいは他人が、ある年金(A年金とします)が受給できたり受給権を持っていることで、年金が受給できなくなったり、他の年金等の給付に影響が出る場合があります。 そのA年金が全額支給停止になった場合に他の年金の支給に影響がある場合とない場合があります。まとめてみました。

■法令の参照

労災法:労働者災害補償保険法
健保法:健康保険法
健保令:健康保険法施行令
国年法:国民年金法
国年例:国民年金法施行令
厚年法:厚生年金保険法
厚年令:厚生年金保険法施行令
昭60年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)
昭61年経過措置令:国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に
          関する政令(昭和61年政令第54号)

1.受給権者の申出による支給停止

受給権者の申出による受給の停止は国年法20条の2、厚年法38条の2で認められている。
受給権者の申出による支給停止は、次の場合は支給停止とは扱われない。
(国民年金法20条の2第4項、厚年法38条の2第4項)

(1)申出による基礎年金の支給停止(国年令第4条の4の2)

・同一事由で障害基礎年金、遺族基礎年金を受給する場合の労災保険の給付の調整
  (労災法の別表第1第1号、第3号)
・障害基礎年金の子の加算があるときの、老齢厚生年金の子の加給年金額の支給停止
  (厚年法44条第1項)
・寡婦年金の、夫が障害基礎年金の受給権者であつたことがあるとき、又は老齢基礎年金の支給を受け
 ていたときの不支給(国年法49条第1項)
・死亡一時金の老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある者が死亡したときの不支給
  (国年法52条の2第1項)
・経過的寡婦加算の、障害基礎年金の受給権を有する場合の支給停止(昭60年改正法附則73条  
 第1項)。  遺族基礎年金の受給権を有する場合の支給停止(同法同条第2項)については規定され
 ていない。
・継続支給の傷病手当金の老齢基礎年金との調整(健保法108条5項、健保令38条第1号)
・配偶者加給年金額の、障害基礎年金を受けることができるときの支給停止(厚年法46条第6項、
 厚年令3条の7第1号の2、厚年法54条第3項で準用)
・振替加算の、障害基礎年金を受けることができるときの支給停止
  (昭60年改正法附則16条、昭61年経過措置令28条)

(2)申出による厚生年金の支給停止(厚年令3条の3)

・同一事由で障害厚生年金、遺族厚生年金を受給する場合の労災保険の給付の調整
  (労災法の別表第1第1号、第2号)
・継続支給の傷病手当金の老齢厚生年金との調整(健保法108条5項、健保令38条第2号)
・配偶者加給年金額の、老齢厚生年金、障害厚生年金を受けることができるときの支給停止
  (厚年法46条第6項、厚年令3条の7第1号)
・振替加算の、障害厚生年金を受けることができるときの支給停止
  (昭60年改正法附則16条、昭61年経過措置令28条)

2.併給調整による支給停止

これが問題になるのは、配偶者加給年金額、振替加算についてである。
配偶者加給年金額は
老齢厚生年金、障害厚生年金の配偶者加給年金額は加算の対象となる配偶者が
・240か月以上の老齢厚生年金
・障害厚生年金
・障害基礎年金
の支給を受けることができるときは支給停止になる。
しかし、全額支給停止されている給付は除かれるとされている
(厚年法46条第6項、54条第3項、厚年令3条の7)
振替加算は
受給権者が障害基礎年金、障害厚生年金の支給を受けることができるときは支給停止になる。ただし
その全額について支給停止されている給付は除かれるとされている。
(昭60年改正法附則16条、昭61年経過措置令28条)

疑問があるのは併給調整により支給停止になる場合はどうなるかという点である。
例えば障害基礎年金は受給できるが、老齢基礎年金を選択することにより障害基礎年金が支給停止に
なる場合の振替加算、障害厚生年金が受給できるが、240月に満たない老齢厚生年金を選択した場
合の加給年金額等である。
これについては法令上明示的には規定されていないし、解釈する通達も出ていないようである。
従って確実ではないが、次のような理由で併給調整による支給停止によっては加給年金額、振替加算
の支給停止は解除されないと考えられる。
全額支給停止されている場合は除くという規定は、”受けることができるときは支給停止する。ただし
(受けることのできる年金が)全額支給停止されている場合は除く”という文脈で規定されているよう
に思われる。併給調整で支給停止になる場合は、選択替えをすることで受給できるのだから”受けるこ
とができるとき”に該当し、しかもその年金は全額支給停止になっていないので、振替加算、加給年金
額は支給停止になる。かりにその際に障害基礎年金、障害厚生年金が「全額支給停止」されている状態
であれば老齢基礎年金、老齢厚生年金を受給しても支給停止にはならないはずである。

3.効果を及ぼす支給停止が限定されている場合

(1)子の遺族基礎年金の支給停止の解除

配偶者が受給権を有する時の、子の遺族基礎年金の支給停止は、配偶者の遺族基礎年金が以下の事由で
支給停止されている時のみ、支給停止が解除される(国年法41条2項)
・受給権者の申し出による支給停止(国年法20条の2第1項、第2項)
・配偶者の所在が1年以上明らかでない時(国年法41条の2第1項)

(2)子の遺族厚生年金の支給停止の解除

配偶者が受給権を有する時の、子の遺族厚生年金の支給停止は、配偶者の遺族厚生年金が以下の事由で
支給停止されている時のみ、支給停止が解除される(厚年法66条第1項)
・若年支給停止(厚年法65条の2)
・配偶者が遺族基礎年金の受給権を有さず子が遺族基礎年金の受給権を有することによる支給停止
  (厚年法66条第2項)
・配偶者の所在が1年以上明らかでない時(厚年法67条)

(3)配偶者の遺族厚生年金の支給停止の解除

配偶者が遺族基礎年金の受給権を有さず、子が遺族基礎年金の受給権を有するときは配偶者の遺族厚生
年金は支給停止される。支給停止は以下の事由で子の遺族厚生年金が支給停止されているときは解除さ
れる(厚年法66条第2項)。
・子の所在が1年以上明らかでない時(厚年法67条)
初稿2020/7/17