在職老齢年金の詳細

典型的な場合の在職老齢年金の制度については、一般の人にもかなり浸透しています。しかし、繰り上げている場合どうなるかとか、定額部分があるときはどうなるかとかは、かなりややこしい話です。まとめてみました。
今回改めて調べてみたのですが、いまだに次の2点について不明です。もしそれについて定めた規定などをご存じの方があれば教えていただければ幸いです。

■法令の参照

文中
厚年法:厚生年金保険法
厚年令:厚生年金保険法施行令
昭60年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)
平成12年経過措置政令:平成十二年度、平成十四年度及び平成十五年度の国民年金制度及び
              厚生年金保険制度の改正に伴う経過措置に関する政令(平成12年政令第180号)

(1)原則の老齢厚生年金の在職老齢年金

定義

総報酬月額相当額:標準報酬月額とその月以前1年間の標準賞与額を12で除した額の合計
支給停止対象老齢厚生年金:老齢厚生年金から加給年金額、繰下げ加算額、経過的加算額を除いた額
   (本稿での造語であり、法律内で定義されている用語ではない)
基本月額:支給停止対象老齢厚生年金を12で除したもの

支給停止

被保険者である日または70歳以上の使用されるものである日が属する月において
総報酬月額相当額+基本月額
が支給停止調整額を超えるときは、超えた額の2分の1を12倍した額(支給停止基準額)を支給停
止対象老齢厚生年金から支給停止する。
ただし、支給停止額が支給停止対象老齢厚生年金の全額を超えるときは加給年金額も支給停止する
(繰下げ加算額、経過的加算額は停止しない)。
(厚年法46条第1項、昭和60年改正法附則62条)

補足

被保険者である日または70歳以上の使用されるものである日が属する月において
・被保険者である日については前月から引き続き被保険者である場合に限られる。70歳以上の使用
 される者である日については前月から引き続き70歳以上の使用されるものである場合に限られる。
 (厚年法46条1項)
・”被保険者である日”には、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して
 一月を経過した場合については、資格喪失日を含まない(厚年法46条1項、厚年法規則32条の
 2)。これは変な規定である。もともと資格を喪失した日は被保険者である日ではないので、それを
 わざわざ念押しする必要はない。すると”被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日
 から起算して 一月を経過した場合”を満たさない場合については資格喪失日を”被保険者である日”
 とする規定なのではないか。この場合、月末退職して翌月就職した場合、退職月の翌月は在職支給停
 止されることになる。 そうだとすると、その際の標準報酬月額は従前の額、新規就職先の額のどち
 らになるか不明である。ここは年金一元化法で改正されたところであり、一元化以前は、被保険者
 である日に厚年令(3条の6)で”資格を喪失した日”が加えられていた。退職月の翌月に就職した
 場合についてそれが継承されていると考えると、従前の標準報酬月額により支給停止されるのであろ
 う。
・在職老齢年金の支給停止は”支給停止事由が生じた月の翌月から消滅した月まで”という厚年法
 32条第2項の規定は適用されない(厚年法46条第5項)

(2)原則の老齢厚生年金を繰上げた場合の在職老齢年金

繰上げた場合に対する規定が別に定められていないので、繰上げない場合と同じ規定が適用される。
従って65歳未満においても全額支給停止時にも経過的加算額のみは支給されることになる。

※これについては厚年法附則7条の5で高年齢雇用継続給付金を受けるときに”支給停止基準額”と同条
で規定される”在職支給停止調整額”との合計額を支給停止すると定められていることからも、その解釈
で正しいことがわかる。
この場合附則7条の5で全額支給停止される場合の繰下げ加算額と経過的加算額についての除外が規定さ
れていない(繰下げ加算額はあり得ないからよいが)。高年齢雇用継続給付金があるかないかで取り扱い
が違うのは変なので繰り上げない場合と同じと考えてよいだろう。
※法律上、経過的加算額は繰り上げによる減額なしに加算されていて、経過的加算額の繰上げ減少額分は
報酬比例分から減額されている。従って”経過的加算額”とは規定できず、経過的加算額に繰上げ減額率
を掛けた額とする必要があると思われるが、そのような規定は見つけていない。

(3)特別支給の老齢厚生年金の在職老齢年金

厚年法46条の規定は除外される(厚年法附則10条の2)

(3−1)定額部分がない場合(厚年法附則11条)

総報酬月額相当額と基本月額の合計が支給停止調整開始額を超えるときは老齢厚生年金のから次の額を
12倍した額(支給停止基準額)を支給停止する。
(a)基本月額が支給停止調整開始額以下の場合
(a−1)総報酬月額相当額が支給停止調整変更額以下
 総報酬月額相当額と基本月額との合計額から支給停止調整開始額を控除して得た額の2分の1
(a−2)総報酬月額相当額が支給停止調整変更額超
支給停止調整変更額と基本月額との合計額から支給停止調整開始額を控除して得た額の2分の1に、
総報酬月額相当額から支給停止調整変更額を控除して得た額を加えた額
(b)基本月額が支給停止調整開始額超
(b−1)総報酬月額相当額が支給停止調整変更額以下
総報酬月額相当額の2分の1
(b−2)総報酬月額相当額が支給停止調整変更額超
 支給停止調整変更額の2分の1に総報酬月額相当額から支給停止調整変更額を控除して得た額を加え
 た額

基本月額が支給停止調整開始額超ということはまず考えられないので、実際は(a−1)または(а−2)
であると思われる。

(3−2)障害者特例、長期加入特例の場合(厚年法附則11条の2)

基本支給停止額:定額部分に加給年金額を加算した額
基本月額:報酬比例部分を12で割った額
となり、
総報酬月額相当額と基本月額の合計が支給停止調整開始額以下であるとき
→老齢厚生年金から基本支給停止額を支給停止する

総報酬月額相当額と基本月額の合計が支給停止調整開始額を超えるとき
→基本支給停止額と(3−1)と同様に計算した支給停止基準額の合計額を老齢厚生年金から支給停止
 する。

(3−3)坑内員・船員特例の場合(厚年法附則11条の3)

基本月額:定額部分と報酬比例部分を含む老齢厚生年金の金額(加給年金額は含まない)の12分の1

総報酬月額相当額と基本月額の合計が支給停止調整開始額を超えるときは、(3−1)と同様に計算し
た支給停止基準額を老齢厚生年金から支給停止する。加給年金額を除いた老齢厚生年金が全額支給停止
されるときは加給年金額も含めて支給停止になる。

(4)特別支給の老齢厚生年金を受給できる者が繰上げした時の在職老齢年金

(4−1)定額部分がない場合

65歳未満では特別支給の老齢厚生年金の場合と同じ基準による支給停止を行う。
(厚年法附則13条の6)

※この際に経過的加算の扱いが不明。
基本月額の計算で経過的加算が除かれるのかどうか。またもし除かれるとすると形の上では経過的加
算は繰り上げによる減額がされておらず、経過的加算の減額分は報酬比例部分から減額されている。
従って、基本月額の計算時に経過的加算をそのまま除外すると除外しすぎになる。また全額支給停止に
なるときに経過的加算(相当額)のみが支給されるのかも不明。

(4−2)障害者特例、長期加入特例の場合

繰上げ調整額があることになる。
しかし繰上げ調整額は被保険者については支給停止されるので(厚年法附則13条の5第6項)、報酬
比例分に厚年法附則13条の6が適用されると思われる。
(この場合厚年法附則11条の4【老齢基礎年金が受給できる場合の支給停止】では、被保険者である
場合を除外しているので、同条による支給停止ではない。また障害者特例について繰り上げた場合につ
いて11条の4の流用を定めていてかつ基礎年金相当額の支給停止も定めている平成12年経過措置政
令第6条も適用されない。)

※この場合についても経過的加算額の扱いが不明

(4−3)坑内員・船員特例の場合(厚年法附則11条の3)

坑内員・船員特例で繰上げを行った場合の在職老齢年金について、直接定めた規定は見当たらない。
素直に他の規定を類推適用もできないように思われる。どこかに見逃している規定があるのだろうか。
被保険者であることによっての繰上げ調整額の支給停止についての規定はない(厚年法附則13条の5
第6項で坑内員・船員特例の場合は除外されている)。繰上げしない場合にも被保険者であることに
よる定額部分の支給停止は無いので当然であろう。
一方、繰り上げない場合について老齢基礎年金が受給できる被保険者の場合は厚年法附則11条の4
第2項に定められている。報酬比例部分の支給停止に加えて定額部分を支給停止することになっている
ので、これを繰上げる場合についても準用するのだとすると繰上げ調整額は全額支給停止されることに
なる。加給年金額が加算される場合は加給年金額も報酬比例に加えて13条の6を適用することににな
る(※1)。
しかし、被保険者であれば無条件に定額部分が支給停止される障害者特例、長期加入特例に対し、支給
停止されない坑内員・船員特例の場合に、一部繰り上げに対しても定額部分が支給停止されるのはおか
しい。一部繰上げをする場合と繰上げない場合との間で不連続が生じる。

経過的加算の扱いも不明なのも同様。

※1 障害者特例、長期加入特例の場合、被保険者であるために繰上げ調整額が支給停止される場合は
加給年金額も支給停止される(厚年法附則13条の4第8項)。これに対し繰上げ調整額の支給停止も
(厚年法附則13条の5第6項)、それに伴う加給年金額の支給停止(附則13条の4第8項)も坑内
員・船員の場合は除外されている。つまり坑内員・船員の加給年金額の支給停止規定がないため、厚年
法附則11条の4第2項により繰上げ調整額が停止されても加給年金額は支給されるからである。
初稿2020/6/9