60歳以降の公的年金被保険者期間の取り扱い

60歳以降の公的年金の被保険者期間の取り扱いについて、法令上の根拠と一緒にまとめてみました。

■法令の参照

文中
国年法:国民年金法
厚年法:厚生年金保険法
昭60改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)
平6改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(平成6年法律第95号)
平16改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号)

1.基本的な規定の確認

60歳以上で公的年金の被保険者である場合は
 ・厚生年金の被保険者(任意単独被保険者も含む。70歳未満)。
 ・厚生年金の高齢任意加入被保険者(70歳以上)(厚年法附則4条の3、附則4条の5)
 ・国民年金の任意加入被保険者(60歳以上65歳未満)(国年法附則5条)
 ・国民年金の特例による任意加入被保険者(65歳以上70歳未満)(平6改正法附則
  11条、平16改正法附則23条)
がある。

それぞれの期間が
 ・老齢年金の受給資格期間10年に算入されるか
 ・遺族年金の受給資格期間25年以上を満たした者の死亡の要件である25年に算入され
  るか(以降単に「遺族年金の受給資格期間」と言う)
 ・障害年金、遺族年金の保険料納付要件の計算に算入されるか
 ・国民年金の独自給付(寡婦年金、死亡一時金)における資格期間に算入されるか

について検討する。なお、加給年金額等における老齢満了の要件は厚生年金の被保険者期間につ
いて定められているので、規定上の疑問は無い。

基本的な規定として以下がある。
 ・65歳以上の厚生年金の被保険者期間は、老齢年金の受給権を得ていない場合を除き、
  第2号被保険者期間とはならない。(国年法附則3条)
 ・厚生年金の被保険者期間のうち第2号被保険者期間でない期間は「保険料納付済期間」
  ではない。(国年法5条1項)
 ・厚生年金の給付についての規定において保険料納付済期間、保険料免除期間は国年法の
  定義と同じである(厚年法3条)。
  附則や改正法附則で国民年金法上の給付の保険料納付済期間とみなされる期間が、厚年法
  による給付の保険料納付済期間とみなすのかについては別途検討が必要だが、国年法
  5条1項の規定の適用について保険料納付済期間とみなすことになっていれば保険料納付
  済期間となる。
 ・老齢厚生年金、遺族厚生年金の受給要件における、合算対象期間については、60歳未満
  で老齢年金の受給権を持つ期間、および日本国内に住所を有しない期間であって任意加入
  しなかった期間、および未納期間については合算対象期間となる規定があるが(厚年法附則14条)
  それ以外の老齢基礎年金、遺族基礎年金の合算対象期間については個別の規定が必要と思われる。

2.国民年金の任意加入被保険者期間、特例任意加入被保険者期間

老齢年金、遺族年金の受給資格期間

 ・老齢基礎年金の受給資格期間、遺族基礎年金の受給資格期間において保険料を納付した期間に
   ついては「保険料納付済期間」として算入される(国年法附則5条10項)。60歳未満の未納
   期間は合算対象期間として算入される(国年法附則9条1項)
 ・老齢厚生年金の受給資格期間、遺族厚生年金の受給資格期間においては保険料を納付した期間に
   ついては保険料納付済期間として算入される(国年法附則5条10項、厚年法第3条)。60歳
   未満の未納期間は合算対象期間として算入される(国年法附則9条1項、厚年法附則14条)

保険料納付要件

  ・保険料納付要件は、基礎年金、厚生年金共に国民年金の被保険者期間に対する、保険料納付済期間、
    保険料免除期間により定義されている(国年法30条、37条、厚年法47条、58条、昭和60年
    改正法附則20条、64条)。
    従って任意加入被保険者期間、特例による任意加入被保険者期間共に保険料納付要件においては、
    障害基礎年金、遺族基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金、すべてにおいて被保険者期間であり、
    保険料を納付した期間は保険料納付済期間である。(国年法30条、37条、厚年法47条、58条、
    昭和60年改正法附則20条、64条)。

第一号被保険者としての被保険者期間

(国年法附則5条10項、平6改正法附則11条10項、平16改正法附則23条10項)

 ・任意加入被保険者期間、特例による任意被保険者期間、共に第一号被保険者としての被保険者期間と
  なるもの
   死亡一時金(国年法52条の2〜52条の6)
   旧陸軍共済組合等の組合員であつた期間を有する者に対する老齢年金の支給(国年
   法附則9条の3)
   日本国籍を有しない者に対する脱退一時金の支給(国年法附則9条の3の2)

 ・任意加入被保険者期間のみ第一号被保険者としての被保険者期間となるもの
   寡婦年金(国年法49条〜52条)

その他

   ・国年法26条ただし書きに該当することが要件となる旧陸軍共済組合等の組合員であつた期間を
    有する者に対する老齢年金(国年法附則9条の3)、脱退一時金(国年法附則9条の3の2)、
  厚年法42条第2号に該当しないことが要件となる特例老齢年金(厚年法附則28条の3)、
  脱退一時金(厚年法附則29条)、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年
  に満たないことが条件とされる特例遺族年金(厚年法附則28条の4)、の当該要件判定については
     ・保険料を納付した期間については保険料納付済期間となる。
     ・60歳未満の保険料未納期間については合算対象期間となる。
  (国年法附則5条10項、平6改正法附則11条10項、平16改正法附則23条10項、
   国年法附則9条、厚年法附則14条)

3.60歳以上の厚生年金加入期間、高齢任意加入被保険者期間

老齢年金、遺族年金の受給資格期間

  ・60歳以上65歳未満の厚生年金被保険者期間は老齢基礎年金、遺族基礎年金、老齢厚生年金、
   遺族厚生年金の支給要件については合算対象期間。(昭60改正法附則8条4項)
  ・65歳以上の厚生年金被保険者期間で、老齢年金の受給権を持つ場合、第2号被保険者ではない
   ので、老齢基礎年金、遺族基礎年金、老齢厚生年金、遺族厚生年金の支給要件については
   納付済期間にも、合算対象期間にもならない。
   65歳以上の厚生年金被保険者期間で、老齢年金の受給権を持たない期間は、第2号被保険者な
   ので、合算対象期間である。

 【疑問点】老齢厚生年金、遺族厚生年金の受給資格期間における60歳以上の第2号被保険者期間の
  取り扱いについては次の疑問がある。
  この期間については昭和60年改正法附則8条4項ではこの期間は国年法附則9条1項の適用に
  ついては合算対象期間とするとされている。
  9条1項では任意加入可能期間を合算対象期間とし老齢基礎年金、遺族基礎年金等に適用するという
  ものである。つまり8条4項の規定はこの際に該期間を納付済期間とせず合算対象期間にするという
  ものである。
  一方厚年法附則14条の規定は9条1項で規定する合算対象期間(つまり任意加入可能期間)を
  老齢厚生年金、遺族厚生年金に適用するというものである。
  以上よりこの期間を保険料納付済期間とせず合算対象期間にするということが、老齢厚生年金や
  遺族厚生年金にも適用されるとはどこにも規定されていないように思える。
  同じことが特例老齢年金(厚年法附則28条の3)、脱退一時金(厚年法附則29条)、特例遺族
  年金(厚年法附則28条の4)の該当判定要件にも言える。
  20歳未満60歳以上の厚生年金の被保険者期間を厚年法附則14条の合算対象期間とするという
  規定が別途必要に思われる。事実、昭60年改正法附則8条5項で定義されている合算対象期間に
  ついては昭60年改正法附則48条において改めて厚年法附則14条の規定の適用においては合算
  対象期間とすることが規定されている。
  根拠規定がどこかにあるのかもわからないが、今のところ見つかっていない。

 【問題点】老齢年金の受給権を有している場合、65歳以上の加入期間は保険料納付済期間にも合算
  対象期間にもならない。つまり65歳以上で厚生年金に加入することで、厚生年金加入期間25年
  を満たしたとしても、遺族厚生年金の25年要件には該当しない。受給資格期間10年への短縮前
  は第2号被保険者となり25年要件を満たすことができたのであるから、これは改悪である。

障害年金、遺族年金の保険料納付要件

  障害基礎年金、遺族基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金ともに保険料納付要件は国民年金の
 被保険者期間と保険料納付要件に対し定められている。従って次のようになる。
    ・60歳以上65歳未満の厚生年金加入期間については、保険料納付済み期間である。
  ・65歳以上の厚生年金被保険者期間については、老齢給付の受給権を持つ場合、国年法5条、
   国年法附則3条により、国民年金の被保険者期間でもなく、保険料納付済み期間ではない。
   従って保険料納付要件においては分母にも、分子にも含まれない。
   老齢給付の受給権を持たない場合は被保険者期間であり、保険料納付済期間である。

 【問題点】老齢給付の受給権を有している場合は、65歳以降以降厚生年金に加入しても、納付条件
  が達成されることは無い。これも老齢給付受給資格期間を10年に短縮したことに伴う改悪である。
初稿2018/7/26