脱退手当金の経過措置

厚生年金保険の脱退手当金は昭和60年改正で廃止になりましたが、経過措置として現在でも受給できる場合があります。脱退手当金の経過措置について根拠法令とともにまとめてみました。

■参照法令一覧

昭和36年改正法:通算年金制度を創設するための関係法律の一部を改正する法律
         (昭和36年11月1日 法律第182号)
昭和40年改正法:厚生年金保険法の一部を改正する法律(昭和40年6月1日 法律第104号)
昭和60年改正法:国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年5月1日 法律第34号)

1.脱退手当金の改正経過

昭和29年の改正厚生年金保険法では脱退手当金は
 ・被保険者期間が2年以上ある女子が被保険者の資格を喪失した場合
 ・被保険者期間が5年以上ある男子が55歳に達した後に被保険者資格を喪失した場合、
  または被保険者資格を喪失して55歳に達した場合
 に支給する。ただし老齢年金の受給資格期間を満たしているときや障害年金の受給権を
 有しているときは支給されない。
とされていた(昭和29年厚生年金保険法69条)

それが昭和36改正法で次のように改正された。
 ・被保険者期間が5年以上あるもので、老齢年金の受給資格期間を満たしていないもの
  が、60歳に達した後に被保険者の資格を喪失し、または被保険者の資格を喪失して
  60歳に達した場合で、通算老齢年金の受給権を取得しない場合に支給する。ただし
  障害年金の受給権者である時は支給しない。(改正後厚年法69条)

昭和40年改正法では次の附則が付け加えられた。
 ・公布の日(昭和40年6月1日)から6年以内に被保険者資格を喪失した女子、また
  は昭和36年11月1日から公布の日の前日までに被保険者資格を取得して公布の日
  に被保険者でない、女子には、36年改正前の規定により脱退手当金を支給する。た
  だし通算老齢年金の受給権を得た場合は支給しない。(改正法附則17条)
なお、公布の日から6年以内はその後改正され現在では公布の日から13年以内になって
いる。

その後昭和60年改正法で脱退手当金は廃止され、経過措置として昭和16年4月1日以
前に生まれたものに対して、昭和60年改正前の厚生年金保険法による支給が行われる(改
正法附則75条)。

2.現行の経過措置

(1)昭和16年4月1日以前生れの場合は、以下の条件にあてはまるとき脱退手当金が支給 
   される。(昭和60年改正法附則75条、旧厚生年金保険法69条)
    ・被保険者期間が5年以上ある。
    ・60歳に達した後に被保険者資格を喪失、または被保険者資格を喪失してから
     60歳に達した。
    ・老齢厚生年金の受給資格期間を満たしていない。
    ・老齢厚生年金の受給権が無い。
    ・障害厚生年金の受給権者でない。

(2)昭和40年6月1日から13年以内に被保険者資格を喪失した女子、または昭和
   36年11月1日から昭和40年6月1日の前日までに被保険者資格を取得して
   昭和40年6月1日に被保険者でない女子については、次の条件を満たしたとき脱
   退手当金を支給する。
     (昭和40年改正法附則17条、昭和36年改正前厚生年金保険法69条)
    ・被保険者期間が2年以上ある。
    ・老齢厚生年金の受給資格期間を満たしていない
    ・通算老齢年金、老齢厚生年金の受給権を有していない
    ・障害厚生年金の受給権を有していない

(3)以下に該当する者
  ・昭和36年11月1日前に被保険者の資格を喪失し、脱退手当金の受給権を取得
   した者
  ・明治44年4月1日以前に生まれた者
  ・昭和36年11月1日前から引き続き被保険者であり、同日から起算して5年以内   
   に被保険者の資格を喪失した女子
  ・昭和29年5月1日前に被保険者の資格を喪失し、かつ、同年4月30日におい
   て五十歳未満であつた女子であり、被保険者期間が5年以上ある者
  については、以下の条件を満たすとき脱退手当金を支給する
  (昭和36年改正法附則9条、昭和36年改正前厚生年金保険法69条)
    ・被保険者期間が2年以上ある女子が被保険者の資格を喪失した場合
    ・被保険者期間が5年以上ある男子が55歳に達した後に被保険者資格を喪失し
     た場合、または被保険者資格を喪失して55歳に達した場合
   であって
    ・老齢厚生年金、通算老齢年金の受給権を有していない
    ・障害厚生年金の受給権を有していない

(4)昭和61年3月31日以前に、以下を満たす者
     ・60歳に達してから被保険者資格を喪失した、または被保険者資格を喪失してか
     ら60歳に達した。
    ・被保険者期間が5年以上あり、老齢年金の受給資格期間を満たしていない
    ・通算老齢年金の受給資格を取得しない
    ・障害年金の受給権者でない
      (昭和60年改正前厚生年金保険法69条)

3.関連法令

最後に、根拠となる法令の原文を掲載しておく。

(1)昭和29年厚生年金保険法(昭和29年5月19日法律第115号)

 (受給権者)
第六十九条 脱退手当金は、第二種被保険者としての被保険者期間が二年以上である者が
被保険者の資格を喪失した場合又は第一種被保険者若しくは第三種被保険者としての被保
険者期間が五年以上である者が五十五歳に達した後に被保険者の資格を喪失し、若しくは
被保険者の資格を喪失した後に被保険者となることなくして五十五歳に達した場合に、そ
の者に支給する。但し、左の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
 一 その者が、第四十二条第一項各号のいずれかに規定する被保険者期間を満たしてい
   るとき。
 二 その者が、障害年金の受給権者であるとき。
 三 その者がその被保険者であつた期間の全部又は一部を基礎として計算された障害年
   金又は障害手当金の支給を受けたことがある者である場合において、次条第一項の
   規定によつて計算した額が、すでに支給を受けた障害年金又は障害手当金の額に満
   たないとき。

 (脱退手当金の額及び受給資格年齢の特例)
附則第二十二条 旧法第二十四条から第二十五条ノ二までの規定によつて計算した被保険
者期間が五年以上の者であつて、昭和二十九年五月一日において現に五十歳以上であるも
のに支給する脱退手当金の額は、第七十条の規定にかかわらず、旧法による被保険者であ
つた期間について従前の脱退手当金の例によつて計算した額と、同日以後の第四種被保険
者以外の被保険者であつた期間の平均標準報酬月額に別表第四に定める率を乗じて得た額
との合算額とする。
2 前項の者が昭和二十九年五月一日以後に被保険者の資格を喪失したときは、その者が
五十五歳未満である場合においても、その者に第六十九条の脱退手当金を支給する。但し、
同条各号の一に該当する場合は、この限りでない。

(2)昭和36年改正法附則(現行)(昭和36年11月1日 法律第182号)

第九条  施行日前に被保険者の資格を喪失し、かつ、脱退手当金の受給権を取得した者に
支給する当該資格喪失に係る脱退手当金については、なお従前の例による。 
2  次の各号に掲げる者に対しては、従前の例により脱退手当金を支給する。ただし、第
一号及び第二号に掲げる者については、従前の例による脱退手当金を支給すべき場合にお
いて、その支給を受けるべき者が、その際、通算老齢年金の受給権を有しているとき、又
は通算老齢年金の受給権を取得したときは、この限りでない。 
一  明治四十四年四月一日以前に生まれた者 
二  施行日前から引き続き第二種被保険者であり、同日から起算して五年以内に被保険者
の資格を喪失した者 
三  旧厚生年金保険法(昭和十六年法律第六十号)による被保険者であつた期間に基づく
被保険者期間が五年以上である女子であつて、昭和二十九年五月一日前に被保険者の資格
を喪失し、かつ、同年四月三十日において五十歳未満であつたもの。 
3  前二項に規定する脱退手当金の受給権は、その受給権者が施行日以後において通算老
齢年金の受給権を取得したときは、消滅する。 
4  第一項の規定による脱退手当金の受給権者であつて、施行日前にさかのぼつて通算老
齢年金の受給権を取得したこととなるものについては、その者が通算老齢年金の支給を受
けたときは、その脱退手当金の受給権は消滅し、その者が脱退手当金の支給を受けたとき
は、さかのぼつて通算老齢年金の受給権を取得しなかつたものとみなす。 
5  第一項の規定による脱退手当金の受給権者が昭和三十六年四月一日以後に死亡した
場合又は第二項の規定による脱退手当金の受給権者が施行日以後に死亡した場合には、こ
れらの規定にかかわらず、改正後の厚生年金保険法第三十七条の規定を準用する。 
6  昭和三十六年四月一日から施行日の前日までの間に改正前の厚生年金保険法第六十
九条又は附則第二十二条の二の規定による脱退手当金の支給を受けた者が、施行日から起
算して六月以内に都道府県知事に申し出て、その支給を受けた脱退手当金の額に相当する
額を返還したときは、その者は、その脱退手当金の支給を受けなかつたものとみなす。 

(3)昭和40年改正法附則(現行)(昭和40年6月1日法律第104号)

(特例による脱退手当金の支給)
第十七条  この法律の公布の日から起算して十三年以内に第二種被保険者の資格を喪失
した者に対しては、当該資格を喪失した時において通算年金制度を創設するための関係法
律の一部を改正する法律(昭和三十六年法律第百八十二号。以下この条において「関係整
理法」という。)附則第九条第二項の規定による脱退手当金の受給権を取得する場合を除き、
関係整理法による改正前の厚生年金保険法の規定の例により脱退手当金を支給する。ただ
し、当該脱退手当金を支給すべき場合において、その支給を受けるべき者が、その際、通
算老齢年金の受給権を有しているとき、又は通算老齢年金の受給権を取得したときは、こ
の限りでない。 
2  昭和三十六年十一月一日からこの法律の公布の日の前日までの間に第二種被保険者
の資格を取得した者(明治四十四年四月一日以前に生れた者を除く。)であつて、この法律
の公布の際現に被保険者でないものであり、かつ、その被保険者期間が二年以上であるも
のに対しても、前項と同様とする。 
3  前二項の規定による脱退手当金の受給権は、その受給権者が当該受給権の取得の日後
において通算老齢年金の受給権を取得したときは、消滅する。 
4  第一項又は第二項の規定による脱退手当金の受給権者が死亡した場合には、これらの
規定によりその例によるものとされている関係整理法による改正前の厚生年金保険法の規
定にかかわらず、厚生年金保険法第三十七条の規定を準用する。

(4)昭和60年改正前厚生年金保険法(最終改正 昭和57年法66)

第六十九条 脱退手当金は、被保険者期間が五年以上である者で老齢年金を受けるに必要
な被保険者期間を満たしていないものが、六十歳に達した後に被保険者の資格を喪失し、
又は被保険者の資格を喪失した後に被保険者となることなくして六十歳に達した場合にお
いて、その者が通算老齢年金の受給権を取得しないときに、その者に支給する。ただし、
次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
  一 その者が、障害年金の受給権者であるとき。
  二 その者がその被保険者であつた期間の全部又は一部を基礎として計算された障害
    年金又は障害手当金の支給を受けたことがある者である場合において、すでに支
    給を受けた障害年金又は障害手当金の額が、次条第一項の規定によつて計算した
    額に等しいか、又はこれをこえるとき。

(5)昭和60年改正法附則(現行)(昭和60年5月1日法律第34号)

(厚生年金保険の脱退手当金の経過措置)
第七十五条  昭和十六年四月一日以前に生まれた者については、旧厚生年金保険法中同法
による脱退手当金の支給要件、額及び失権に関する規定は、その者について、なおその効力
を有する。この場合において、老齢厚生年金は旧厚生年金保険法による老齢年金又は通算老
齢年金と、障害厚生年金は同法による障害年金と、それぞれみなすものとするほか、これら
の規定の適用に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。 
初稿2017/9/9
2.(4)追加2017/9/20