厚生年金の標準報酬額再評価率について

※以下において、法令名が無く条文の番号や別表が記載されている場合、厚生年金保険法を示す。

I.本来水準の再評価率
(1)初期値(平成16年度)
  「別表(第四十三条第一項関係)」にある。

   ※船員保険法(附則第17条の4第2項関係)は附則別表第1に、旧適用法人共済
    組合に関して(附則同条第3項関係)は附則別表第2にある。

(2)平成17年度以降の改定方法(調整期間に属さない場合)
    第43条の2、第43条の3にあり、次の通り。
    1)前年度の再評価率に改定率の改定率を掛ける
    2)前年度に属する月については可処分所得割合変化率を再評価率の改定率とす
            る。
    3)前々年度、前々々年度に属する月については物価変動率×可処分所得割合変
            化率を再評価率の改定率とする。
    4)当該年度に属する月については、前年度における前年度に属する月の再評価
      率に可処分所得割合変化率をかけたものを再評価率とする。

(3)平成17年度以降の改定方法(調整期間に属する場合)
    a)本来の改定方法(43条の4、43条の5)
     1)43条の2、43条の3で起算された再評価率に調整率をかける
     2)ただし再評価率が1以下の場合調整率は適用しない。調整率を掛けた結果
       1以下になる場合は1とする。前年度、前々年度、当該年度の再評価率に
       ついてもそれ以外の年度に適用される再評価率により調整率の適用が判断
       される。
   
         b)経過措置(平成16年改正法附則30条)
      平成17年、18年の可処分所得割合変化率は1とする
      注意
       名目賃金変動率に関しては1とされていない。これは年金額の改定率(同
       附則11条)との違いである。この結果平成17年の改定率の改定率は1
       であるが再評価率の改定率は新規裁定者1.003(名目手取り賃金変動率)、
       既裁定者1.000(物価変動率)となった。
              なお平成17、18年度における名目賃金変動率の計算方法は「平成十六
       年度、平成十七年度、平成十九年度及び平成二十年度の国民年金制度及び
       厚生年金保険制度並びに国家公務員共済組合制度の改正に伴う厚生労働省
       関係法令に関する経過措置に関する政令」(以降、「経過措置政令」)の
       第15条、16条に定められている。

     
     c)平成26年度までの特例(平成16年改正法附則31条)
      1)本来水準の年金額を表す指数(以降本稿では本来指数)が特例水準の年
        金額を表す指数(以降本稿では特例指数)以下となるときは調整率を適
        用しない。(第1項)
      2)本来指数が特例指数を上回り、かつ43条の4,5の調整率が両指数の
        比を上回るときは、調整率は両指数の比とする。(第2項)
  
      ●指数の計算方法(平成十六年度、平成十七年度、平成十九年度及び平成二十
       年度の国民年金制度及び厚生年金保険制度並びに国家公務員共済組合制度
       の改正に伴う厚生労働省関係法令に関する経過措置に関する政令(平成十
       六年九月二十九日政令第二百九十八号)第11条−以下の政令により物価
       スライド特例のスライド値に合わせて基準年度が改訂されている
           平成19年政令100号6条、平成22年政令108号10条、
           平成24年政令61号8条、平成25年政令79号4条)
        本来指数
         平成16年度を0.990(昭和12年4月1日以前生まれの場合0.
         986)とし、再評価率の改定率をかける
        特例指数
         平成18年を0.9999とし、物価スライド特例のスライド値の変
         化率をかける。ただし、平成25年度に関しては0.990、
         平成26年度に関しては0.993をかける。
         (平成25年政令262号1条、平成26年政令112号8条)
        
        ※参考→【末尾注】
           
     d)平成27年度の特例(平成16年附則31条の2)
      1)平成27年度の本来指数が平成26年度の特例指数以下の場合、調
        整率は適用しない。(第1項)
      2)平成27年の本来指数が平成26年の特例指数を上回り、かつ43条の
        4,5の調整率が両指数の比を上回るときは、調整率は両指数の比とす
        る。(第2項)

 
II.特例水準の再評価率

 特例水準の再評価率については平成6年度、平成12年度の改定率をそのまま用いるので、
年度ごとの改定は新規年度の追加をどのようにするかということのみである。

(1)平成6年基準(従前額保障)
  年金額は平成12年改正法附則21条に従い計算される(従前額保障)。この時の再評
  価率は同条第5項に従い、同改正法別表第1による。

  別表第1
   平成16年改正法の次の条文により平成12年改正法附則別表第一が変更された
    第27条第4項の後半
     附則別表第一平成十二年四月以後の項中「平成十二年四月以後」を「平成十二  
     年四月から平成十七年三月まで」に改め、同表に次のように加える。
        平成十七年度以後の各年度に属する月 政令で定める率
     附則別表第一に備考として次のように加える。
        備考 平成十七年度以後の各年度に属する月の項の政令で定める率は、   
        当該年度の前年度に属する月に係る率を、厚生年金保険法第四十三条の  
        二第一項第一号に掲げる率に同項第二号に掲げる率を乗じて得た率で除
        して得た率を基準として定めるものとする。
    第51条
     平成十七年度における第二十七条の規定による改正後の平成十二年改正法附則
     別表第一の備考の規定の適用については、同備考中「当該年度の前年度に属す
     る月に係る率」とあるのは、「〇・九二六」と読み替えるものとする。

  初期値
   平成17年まで 平成16年改正法で改正された平成12年改正法附則別表第一

  改定方法
   平成17年
    平成16年を0.926とみなし、名目手取り賃金変動率で手取り減少率(実際は1)
    の効果を除いたもの(1.003)で割ることになる。従って
       0.923
    となる。

   平成17年以降
     平成12年改正法附則別表第一の備考によると、名目手取り賃金変動率から手 
     取り減少率の効果を除いたもので割ることになる。しかしながら、この改定方
     法の意味は従前額改定率の効果を打ち消すことにあると思われる。従前額改定
     率については次の通りである。
      平成12年改正法附則
       第21条
        3  平成十六年度における前二項の従前額改定率は、一・〇〇一とする。 
        4  第一項及び第二項の従前額改定率は、毎年度、厚生年金保険法第四
          十三条の三第一項又は第三項(同法第三十四条第一項に規定する調
          整期間にあっては、同法第四十三条の五第一項又は第四項)の規定
          の例により改定する。 
     第4項は既裁定者の再評価率の改定と同じにするということである。従って、
     物価変動率で改定された場合は物価変動率を使用すべきであり、実際の運用も
     そうなっている。ここは法律が改訂されるべきである。
       【前年度再評価率を割るべき数値】
       平成17年 名目賃金変動率  1.003
       平成18年 物価変動率    0.997
       平成19年 名目賃金変動率  1.002
       平成20年 物価変動率    1.000
       平成21年 名目賃金変動率  1.011
       平成22年 物価変動率    0.986
       平成23年 物価変動率    0.993
       平成24年 物価変動率    0.997
       平成25年 物価変動率    1.000
       平成26年 名目賃金変動率  1.005

(2)平成12年基準(物価スライド特例)
    平成16年改正前の厚生年金保険法において、標準報酬月額の再評価については  
   附則(附則17条の2、平成12年改正で追加)にあり、再評価に用いる係数は改
   正前の法附則別表第1にある。
     注意 これは平成16年改正以降の附則別表第1(改正前は附則別表第2)と
     も、平成12年改正法附則別表1とも異なるものである。
   平成10年度以降の値は経過措置政令第4条にあり、毎年度「国民年金法施行令等
   の一部を改正する政令」により改定されている。
    実際にどのような計算で改定されているかは不明。

【注1】
これらのルールのため本来指数の計算において次のような生年による差が生じる。
  昭和11年度以前生まれ(〜昭和12年4月1日):
   平成16年度初期値 0.986
   平成17年度改定率  1.000
  昭和12年度生まれ(昭和12年4月2日〜昭和13年4月1日):
   平成16年度初期値 0.990
   平成17年度改定率 1.000
  昭和13年度以降生まれ(昭和13年4月2日〜)
   平成16年度初期値 0.990
   平成17年度改定率 1.003
このため平成26年度においては、昭和13年以降生まれのみ本来指数が従来指数を
0.002上回り、平成16年改正法附則31条の2第2項に従い調整率が適用され再評
価率が0.2%減となった。

初稿2015/1/5
末尾【注】追加2015/3/21
修正2015/3/23
●再評価率→再評価率の改定率
●前々年度→前々年度、前々々年度