<中東のツナミ>中東紛争、和平の行くえを決めるパレスチナ自治評議会選挙が1月25日行われ、対イスラエル強硬派のハマスが圧勝した。その衝撃は深刻で、ニューヨーク・タイムズはそれを「中東のツナミ」と表現したほどである。

六日戦争以来 事前の予想でもハマスが自治政府アッバス議長の与党ファタハに肉迫するだろうとはいわれていた。ところが結果は、単独過半数をはるかに超す圧倒的多数で第一党となる番狂わせだった。

 ハマス自身、第二党がいいところ、ぶっちぎりの第一党とは予測しておらず戸惑ったようだ。イスラエルも米国も同じ、意外な選挙結果に動揺。イスラエルのハーレツ紙は「1967年の六日間戦争(第三次中東戦争)以来の、中東歴史上の重大イベント(出来事)だ」と書いている。

 ハマスは通称で、アラビア語で「熱情」の意。「イスラム抵抗運動」を正式名称とするイスラム原理主義組織である。

「自爆者の勝利」 パレスチナでは1987年以来六年ほど、イスラエルの占領体制に対抗するパレスチナ人の蜂起(第一次インティファダ)があった。この「石の抵抗」とも呼ばれたレジスタンスの中から、ハマスという武闘団が派生、自爆テロを含む絶望的なテロを展開した。

 その基本方針はイスラエル破壊であり、ハマスは05年2月のシャロン・アッバスの停戦宣言以降も、武装闘争を完全には放棄しなかった。その"過激派"の躍進なのだ。ロンドン・タイムズは「イスラム自爆者、選挙に勝利」との見出しをつけた。

 敗れたファタハは、故アラファト議長が1957年につくったパレスチナ解放機構の組織。半世紀の間主流派として権力を握り、パレスチナの政治支配を続けてきた。だが汚職体質と無気力がはびこっていたとされる。

 これに対抗してハマスは医療・教育など民生・福祉面に力を入れてきた。それが大衆の支持につながり、04年12月の地方議会選挙以降、過半数獲得などの実績を積みあげていた。

 ハマスの圧勝は、停滞を繰り返しながらも、ファタハ主導による1993年の暫定自治宣言(オスロ合意)以来のパレスチナ和平の流れをストップまたは後退させるのでは?ーとの危惧が高まっている。

 米国はハマスをテロリスト組織に指定しており、イスラエルとともに「ハマスとは交渉しない」との姿勢をくずしていない(1月末現在)。


イスラエル承認の拒否 今後パレスチナ和平は、どのように推移するのか。英紙ガーディアンは「すべての核心にあるのは、ハマスのイスラエル承認の拒否である。その承認がなければ、米国はパレスチナ自治政府を認めない」。

 「それは中東和平プロセス、米・EU・国連・ロシアによって支持されてきたロードマップが実質的に終わることを意味する」ーとしている。

 選挙選でおおっぴらに打ち出すような野暮なことはしなかったが、実際ハマスの憲章はPLO(パレスチナ解放機構)のそれよりも、イスラエル、ユダヤ人に対してずっと敵対的という。一言でいえば、それは「イスラエルの破壊」である。


 したがってPLOがその憲章を公表してから、ホワイトハウスの芝生でアラファトとラビン(元イスラエル首相)との握手にこぎつけるまで25年かかったが、ハマスとの和解にはもっと長い時間が必要だろうとの観測が早くも出ている。

 楽観主義者はアッバス議長の要請を受けてハマスが組閣、政権党の立場になればハマスも柔軟化し、イスラエルとの事実上の停戦を継続するだろうとする。果たしてそううまくいくか?

 悲観主義者はイスラエルによる一層の補強、例えばイスラエルとパレスチナを隔てる分離壁・フェンスの建設が促進されないか。そうなるとイスラエルとアラブの終わりなき紛争を意味する「包囲」がさらに定着するのでは?ーと恐れている。


アクロバット的 いわゆる中東和平のロードマップと呼ばれるものはすでになかばホコリをかぶっているが、ハマスの登場によって和平交渉はアクロバット的なものとなり、やがて"みせもの"に過ぎなくなろう、との観測もある(BBCなど)。

 ブッシュ大統領はハマスに武装解除、武装闘争放棄を要求した。ハマスも昨年2月の「停戦宣言」以降、自爆テロだけは避ける抑制をしてきたという。しかし「イスラエルの存在そのものを否定する」基本方針をハマスが撤回しないかぎり、安定した和平ムードが生まれるはずもない。


 だからイスラエルはハマス憲章の破棄を要求している。しかし原理主義組織における基本方針の変更は、容易なものではないはずだ。ハマスは武装問題でも「占領下にあるかぎり、抵抗はわれわれの権利である」として武装解除を拒否している(1月末現在)。

 米国やEUはハマスが武装放棄しないかぎり、パレスチナへの資金援助もやめると"兵糧攻め"の構えもみせている。しかしハマスの指導者のひとりは、その"申し入れ"を拒否し「現在のイスラエル戦略を継続する」との姿勢を表明した。

 いずれにしても、イスラエルではシャロン首相が病に倒れ、3月末には総選挙も実施される。ハマスに対応するイスラエル側の体制が、本格的に整うのは総選挙が終わったあとだろう。それまでは双方の条件闘争の期間となろう。


平和も戦争もなく・・・ 「平和もなく(継続的な)戦争もない。そんな状況はたしかに理想的とはいえない。だがそれは55年以上にもわたって、中東に存在してきた。それが中東流なのだ」とBBCは論じている。パレスチナ情勢は、大局的にみてまたその中東流に戻るのだろうか。

       (この稿の資料はハーレツ、BBC、ガーディアンなどによった)

                    (2006年2月1日)