疾走/重松清 2003年 評価:5

 瀬戸内海に面するとある町は、干拓地にある集落「沖」と干拓以前からの集落「浜」に分かれており、「浜」の人間は「沖」を侮蔑していた。「浜」に暮らすシュウジは、四つ上の秀才だった兄・シュウイチが好きだったが、シュウイチは高校で進学校に入学してから徐々に精神を病んで行き、「沖」で放火を繰り返すようになる。シュウジは中学の時に同じ陸上部に所属した「沖」のエリと心を通じ合うようになるが、放火魔の家族として虐げられ、その人生は、自分で考える暇もなく転がり落ちていく。

 衝撃的な表紙カバーの通り、まだ人生をわからない中学生が自分の周囲の者や大人達に翻弄され、落ちるところまで落ちていくというかなりヘビーな内容。暴力的にも、性的にもかなりどぎつく、本来あまりこういうものは好きではないはずだが、スピード感あふれる展開、瀬戸内の汐の匂い、都会の裏社会のじめじめした暗さなどが感じ取れるような丁寧な筆致がぐいぐいと物語に引き込ませる。

 ラストの、エリがシュウジの子を生むところはなんとなく腑には落ちないのだが、それでも、一気に読ませるこの内容は衝撃的で、評価は5を献上。