ある男/平野啓一郎 2018年 評価:3
弁護士の城戸は、かつて離婚調停の依頼人だった里枝から、再婚した夫が、名乗っていた「谷口大祐」ではないことが判明したという相談を受ける。果たして「谷口大祐」を名乗っていた男は誰なのか、どんな境遇で育った男だったのか、城戸は探求を続けるうち、戸籍を変えて人生を生きることの深淵を自分の境遇と合わせて熟考するようになる。
戦後間もない頃ならいざ知らず、2013年という舞台で戸籍交換という行為が、表社会で生きる(「ある男」は結婚して籍も入れるが。。。)前提で実際に成立しうるのか、という疑問が最初に沸いては来るが、まぁそれはやり過ごせるほどの文力はある。
初めてこの作家の作品を読んだが、登場人物の心の表現が緻密で、比喩的表現もハッとさせられるものが多い。一方で心の中をすべて表現するため遊びがなく、読者側の領域での捉え方の振れ幅は少ない。私の知っている範囲の中では宮部みゆき作品が近いと思う。なので、題材の割にストーリー的な起伏があまりなく、作中でも、読者自身での思い入れという点でも、主人公城戸以外の人物像が余り深掘りされないという印象が残る。