川のある下町の話/川端康成 1954年 評価:4


 戦後復興期の東京都郊外の下町を舞台に、美貌を持つがそこに頓着せずに純朴で素直なインターン研修中の大学生義三を巡る、義三のいとこの医者の娘で昔から仲の良い桃子、同じインターン研修生で利発な民子、偶然の事故で義三と知り合うことになった恵まれない境遇の少女ふさ子という3人の優しくて純粋な若い女性の恋愛感情を中心に描いた作品。

 本作は川端作品としてはストーリーが明確かつ、登場人物の気持ちの移り変わりも結構わかりやすく表現されている。しかしもちろん、すべてをセリフや文体で表現するわけではない中で、時々の場面における登場人物の表情まで思い起こさせる雰囲気づくりというのはさすがというもの。

 70年以上前の日本の下町が舞台で、当時だから存在したと思われる登場人物たちの美しくも慎まやかな心の移ろいや行動の健気さは、私のような年代の読者の心へは、ちょっとした温もりを残す。