国宝/吉田修一 2018年 評価:3
任侠の一人息子が歌舞伎の世界で苦労しながらも成長し、女形の国宝となるまでを描く。2025年に映画化され大ヒットを記録した「国宝」の原作。
まず端的に評価すると、1年5カ月に及ぶ朝日新聞連載物だったこと、第三者視点で書かれているので登場人物それぞれの心の奥まで十分に深掘りされていないことから、ストーリーの展開重視という印象が拭えない。それでも上巻の青春篇は惹きつけるものはあるが、下巻の花道篇はかなり都合よくストーリーは展開するので、いまいち話に厚みがない。
正直言うと、映画の方が受ける印象が強烈。やはり歌舞伎舞台の煌びやかさは映像の方が単純明快に美しいし、俊介の両親は原作ではかなりあっさり描かれているが、映画版では、長年歌舞伎界を生き、背負ってきた人生の重みを感じさせる渡辺謙と寺島しのぶの演技が特に素晴らしかったので、その部分も映画版に軍配が上がる。
映画版で腑に落ちなかった、任侠の子喜久雄がやくざの親分に父の敵と復讐を図って失敗したのに、その後何事もなく歌舞伎界で活躍し続けるという不自然さは、原作ではなぜそうなったのかが描かれており、これは納得。あと、映画版は後半が駆け足になる分もったいないと思ったが、原作も後半は駆け足であまり厚みがないので、いい意味でも悪い意味でも原作に忠実だったということか。なお、映画版では冒頭しか出てこない徳治は原作ではかなり重要な役回りである。一方映画版で描かれた喜久雄と俊介が長い空白期間を経て再度共演し、糖尿病の俊介の脚に涙する喜久雄という原作にない展開はとても良い改変だと思う。