異人たちとの夏/山田太一 1987年 評価:5
壮年のシナリオライターである原田は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある日、幼い頃に住んでいた浅草で、12歳のときに交通事故死した両親に出会う。原田は早くに死に別れた両親が懐かしく、少年だった頃のようにふたりの元へ通い出す。また同時期に、同じマンションに住む桂という女性に出会い、彼女と愛し合うようになるが、原田の身体はみるみる衰弱していく。
映画版が大好きなので原作を読んでみたが、元々山田太一は脚本家で、本編も中編なのでセリフはもちろん、それ以外の細かい設定、ストーリー展開もほぼ原作を踏襲した映画版であることが認識された。そのこともあって、どうしても映画で演じた俳優陣が顔に浮かんでくるのだが、それぞれが嵌り役だったこともあって全く違和感がないどころかそれによってさらに感情が刺激される。お互いに良いところがあって、双方のシナジー効果が発揮されている。
原作を読んで明確になったのは、死んだものと会っていると、相手が自分に対して好意を持っていようが悪意を持っていようが関係なく生者は精気を吸い取られるということと、自分に対する愛情を相手が感じてなければ精気を奪い取れないということ。この設定があるからこそ、映画の中でケイは原田に愛を装って近寄ったのだし、自分の力だけで原田を殺せないから親と会うのもあきらめさせたという裏のストーリーが成立する。