風に立つライオン/さだまさし 2013年 評価:3
歌手であるさだまさしは小説もいくつか書いていて、本作は1987年に作曲された同名曲に感銘を受け、「この歌の世界を映像で観たい、できれば自分が演じたい」と考えた大沢たかおが、さだに映画化を視野に入れた小説の執筆を直談判し書かれたという経緯を持つ作品。結果として2015年に大沢たかお主演で映画化されている。
内戦続くケニアに医師として派遣された航一郎は戦地において元来医師とはどうあるべきかという原点に立ち返り、傷ついた戦士、特に少年戦士の心と体のケアに心を砕く。しかし治安の悪いケニアの中である日、航一郎は行方不明になる。
航一郎という医師の存在を、彼に関わった先輩、同僚医師、元恋人など多数の視点から描き出す手法はよくあるもので目新しさはない。また、元来小説家ではないさだまさしが書いているので、悪人はほとんど登場せず、航一郎の素晴らしさを描くことに特に焦点が当たり綺麗にまとまりすぎの感があるが、それでも航一郎の意思がかつて助けた少年兵に受け継がれていることや、東日本大震災の中でも懸命に生きる被災者の姿など、感動的な場面は素直に感動できる。感受性が豊かな時代に読んでいればまた受け止めも変わっていただろうと思われる作品。