千羽鶴/川端康成 1952年 評価:5
4年前に父を亡くした二十代後半の会社員、菊治は、ある日、一時期父の愛人で、現在お茶の先生をしているちか子に茶会に誘われる。茶会の場で、ちか子の後に長らく父の愛人だった太田夫人と会った菊治は、流れのままに夫人と一夜を共にする。
「千羽鶴」は6章からなり、一旦中断。その1年半後に再開されたが、取材ノートが盗難にあったために未完のままとなり、再開後の8章分のうち6章までは「波千鳥」として編集され、本書に同封されている。
とにかく、1ページ目から川端節炸裂で、いきなりドキッとするような表現から始まる。本作で強烈なアクセントとなる、礼儀をわきまえない策略家であるちか子の存在に対しての、太田夫人とその娘と主人公菊治の歪だが純潔な愛のストーリーを軸にして、志野茶碗など茶道具の名器をその愛憎物語にうまく融合させた文章表現など、川端作品を読む際に感じられる喜びを十二分に感じさせる傑作。
一方で「浜千鳥」は、太田夫人の一人娘で、たった一度菊治と体を重ねた末に姿を消した文子から菊治に出された手紙が中心になっていて、非常に長く緻密な描写が綴られた手紙は、それまでにそのような文才がある描写がない若い娘が書くにしては非常に不自然で、文子の言葉というより、小説家川端が表現したいことを書いたという印象しか受けられない。突如として終了する「千羽鶴」のラストは、川端ファンとしては、川端作品によく見られる、鮮烈な印象の結末として受け止められ、不自然でも何でもないため、続編である「浜千鳥」の存在は無視し、「千羽鶴」の評価として5を献上。