蜘蛛女のキス/マヌエル・プイグ 1976年 評価:3
未成年者に対する性的な行為により逮捕されたゲイのモリーナと社会主義運動の政治犯として逮捕された青年革命家ヴァレンティンは、ブエノスアイレスの刑務所で二人きりで同室。モリーナがかつて観た映画のストーリーを語る間に、いつしか二人は互いに心を通わせていく。しかし、実はモリーナは、刑務所長からヴァレンティンのいたゲリラ組織に関する情報を聞き出すよう命じられていた。
ほぼ全編がモリーナとヴァレンティン二人の対話形式であり、モリーナの話術と二人きりという閉鎖された環境で、二人の心と体の距離が縮まっていく過程がごく自然に丁寧に綴られていく。モリーナはいくつかの昔観た映画内容を語るのだが、その描写が非常に繊細なので、まるでその映画を観ているような錯覚を覚える一方、それが過度でもあるのでストーリーの本筋自体は薄っぺらい印象は受けてしまう。
映画版ではモリーナを演じたウィリアム・ハートが鮮烈な印象を残した。基本、原作に忠実なのだが、青年革命家役のラウル・ジュリアも存在感があり、小説版ではこの青年の印象がやや薄いので、映画版の方が記憶に残るかなぁと思う。