青べか物語/山本周五郎 1960年 評価:3
文壇デビューしたものの順風満帆とはいかず経済的にも窮した周五郎は1928年の春から1年強の間(25,6歳の頃)、今の千葉県浦安市に住んでいた。今でこそディズニーランドも出来て立派な都市になったが、当時は釣場でのみ知られた漁村で、そこでの経験をベースに、フィクションも加えながら短編をつなげる形式で書き下ろしたのが本作。
後の周五郎の著名作に見られるような温かい人情を中心とした物語という感じではなく、1年強で逃げるように去って行った理由ともなる、そこの住民とは合わなかった日々を、漁村に住む癖のある人々に対する冷徹な観察から描き出す。100年前の浦安はこんな感じだったのか、というのに興味を惹かれるし、当時の田舎の人々の生々しい赤裸々な生活にも驚くばかり。一風変わった作品だがなかなか興味をもって読めた。