ペット・セマタリー/スティーヴン・キング 1983年 評価:5
大学勤務の若い医師ルイスは、妻と幼い娘と1歳になる息子を連れ、メイン州の田舎町に越してくる。その家の庭には細道があり、その昔、町の子供たちが造ったペット霊園がある裏山に続いている。隣家に住む仲良くなった老人ジャドは、ある日、トラックに轢き殺されたルイス家のペットの猫を、ペット霊園に埋葬する道すがら、霊園の伝説をルイスに語り始める。
死んだ生き物を蘇らせる力を持つ霊園。その設定からは如何様にも凡庸なサスペンスもの、ゾンビものを生み出せると思うが、そこはさすがホラー作品の巨匠キング。その設定を具体的に使用するのは2回のみ、しかも人に使用するのは終盤のみで、その文量は全体の1割程度しかない。それまでは、その究極の“道具”を使用するまでのルイス一家や隣人の老夫婦の生活を丁寧に描く。このため、霊園の力を使用するに至る見えざる力の存在(それがあるかないかも含む)や、ルイスが決断するまでの心情の変化がとても納得感のあるものとなる。それでも非常に怖い。表面的なものではない、人の深層に迫る怖さなのである。さすがはキングと唸らされる一遍。