わたしを離さないで/カズオ・イシグロ 2005年 評価:4
イギリスに住む優秀な介護人、キャシーは、自身がすごしたへ―ルシャムでの日々を語り始めた。ヘールシャム。それは元の依頼人への臓器移植のためにのみ生きているクローンが住む施設だった。映画化もされ、日本でも綾瀬はるか主演でドラマ化された。
悲劇的な生い立ちを持つ青年たちが自分の役割を知るようになりつつもその運命を受け入れるという内容で、いかようにもエモーショナルな展開にできただろうが、イシグロはそれを良しとはせず、持ち味である緻密で抑制のきいた筆致で進行する。物語がすべてキャシーの回想から構成されることにしたのも、そういう内容にするのに一役買っている。特異な境遇の人たちでありながら人間味を感じる青春劇となっているのはこの作家の持ち味によるもので、緻密な構成はストーリーを過度に感傷的にさせることは全くなく、敢えて普通の人感で描くことで、最終的な悲哀を印象付けることに成功している。
ただ、すべて回想という形をとっているので、そんな細部まで覚えている人間はいないだろうという違和感はどうしても残るし、なんとなくエピソードの後付け後付けというように進むので、ストーリー進行上のモヤモヤ感も残ってしまう。