ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士/スティーグ・ラーソン 2007年 評価:5


 世界的ベストセラーを記録した「ミレニアム」シリーズの3作目で、ラーソンは本作以降の構想もあったというが、最後の作品になった。

 本作は完全に2作目「火と戯れる女」の続編になる。前作で頭に銃弾を撃ち込まれ、瀕死の重傷を負ったリスベットは奇跡的に命を取り留め、しかもほとんど脳の損傷を受けなかった。リスベットとその父親ザラの境遇はスウェーデンの公安警察の闇とつながっており、情報をつかんだ「ミレニアム」のミカエルはその真相を追う。

 シリーズ全作に共通するのだが、簡単にあらすじを書くことさえ困難な、予想外の展開で進んでいくのが本作の魅力。しかも、これはこの作家の性格によるのだろうが、おおよそ50人程度の主な登場人物の性格付けと彼らのとる行動の必然性の描写に妥協が一切ない(なので、どれも1000ページを超える物量となる)ので、すべての人物が生き生きとしている。

 前作では明らかに主役がリスベットになっていたが、本作の主役はミカエルとリスベット。1作目での二人の良いバランスが本作では戻ってきている。ほぼ病院のベットの上で動けないリスベットとジャーナリスト魂を奮い立たせるミカエルの行動力が小気味よいし、本作では法廷物としての魅力もある。

 ストーリーが断然面白いことに加え、妥協のない登場人物たちの性格・行動描写によりどんどん読み進めたくなるし、特にプロット重視のミステリーものに多い、なんだか現実世界でないような、フワフワした感覚は全くなく、重厚な印象を与える作風は、スティーグ・ラーソン唯一無二のものであり、返す返すも若干50歳で早逝し、3作しかこの世に残していないのが何とも悔やまれる作家だ。