蟹工船/小林多喜二 1929年 評価:4
1920年代、小樽市からロシア樺太方面に出、蟹を水揚げしては船上で缶詰まで製作していた蟹工船。その、一度出港しては逃げ場のない職場には、高く設定された給料目当てて全国から労働者が集まってきたが、その職場は労働者にとって凄惨なものだった。
いわゆるプロレタリア文学の代表作であり、中学校の文学史で確実に紹介される有名な作品だが、初読。本作に主人公と呼べる登場人物はおらず、延々と虐げられる蟹工船の労働者が写実的に描写され、彼らが船上の管理者側に抗議の戦いを挑んでいくためにまとまっていく様子が描かれる。全ての蟹工船がこの内容の通りではなかったようだが、その、人とも扱われない労働者の境遇は、多喜二の実直でしかも詩的でもある筆致により鮮明に脳裏に刻まれ、当時の労働者を顧みない経営者側の傲慢な思想には驚かされる。
また、小林多喜二は共産党員であり、労働者側に立った作品を発表し続けたために特高に囚われて、拷問の結果死亡するという悲惨な人生を送る。しかしその素顔は明るくて人に好かれる人物だったようで、いまさらながらそのような境遇を知ることもできてよかった。