俘虜記/大岡昇平 1948年 評価:3


 第二次世界大戦末期、実際にフィリピンで俘虜となった作者の実際の経験と、その当時に、自身が感じたことを赤裸々に語った作品。軍隊編成時の上司や、軍幹部、果ては天皇までも批判するような内容も含んでいて、戦後2年で発刊というからよくここまで書いたなと感じる。

 戦時であっても、その時の行動をち密に分析しているところは、妥協を許さない大岡昇平らしい筆致であり思わず笑みが浮かんでしまうほど。そんな印象ももってしまうが、真実に忠実にあらんとした結果、いかに人間というものが置かれる立場によって人間性が変わってしまうかということを如実に表現している。

 また、国家単位でみると正義や権利という大義名分がそれらしい戦う動機とされるが、戦う人間にとっては、なぜそれぞれに家族や知人がいる人間同士が何の理由で殺し合わなければいけないのかという根本的で人間的な疑問を大多数の人間が感じながらも戦っている不条理さも提示する。それは今の時代、どんなに兵器がハイテク化されても変わることはない。なぜに人間は殺し合わねばならないのか、そこのところを国家のトップ自らが戦場の最前線に赴いてよく考えるべきだと思ってしまう。