西部戦線異状なし/レマルク 1929年 評価:4


 第一次世界大戦時、ドイツの志願兵として西部戦線に赴任した青年パウル・ボイメルの、戦場での学生時代の友人、戦友との生活と戦争現場の有様などを通じて、人生を生きる意味や戦争下における不安や恐怖、理不尽さなどを、実際に戦場に赴任した作者の経験をもとに描いた物語。

 戦場に赴き、人間としての感覚を段々と喪失していくさまが、学徒だった青年の目と経験を通じて描かれていく。誰のために、何のために、見も知らない敵軍の兵士を殺すのか。疑問を抱いても、戦場ではそんなことを考える間もなく、ただ機械的に自分が殺されないために戦うのみ。そんな生活の中でイデオロギーを感じることなんかなく、全く訳も分からず戦っている、それが特に二度の世界大戦の大多数の兵士の気持ちではないか。また、そのような場所で暮らしては日常に戻っても元のようには暮らせないという精神障害が、今でさえ戦争の後遺症というのは大きな問題になっているが、この約100年前の本著においても明確に指摘されている。

 本作は第一次世界大戦後にドイツで発刊され反響を呼んだが、間もなくナチス台頭により同じ間違いを繰り返すことになる。ごく一部の人間の決断にどれだけの人間が苦痛を感じることになるのか、それを知りながら人類は何度も同じことを繰り返すという、本当にこの地球上に生きる価値があるのかを感じてしまう。

 本作を原作とした1930年の映画版はかなり原作に忠実。それに加えて映画的な魅力もたたえており戦争映画の画期的な名作である。