ながい坂/山本周五郎 1966年 評価:4


 江戸時代後期。飛騨の下級武士出身の阿部主水正が自らの信念に従い、重責を担いながらも藩の重職に就くまでを描いた作品。山本周五郎の最後の長編小説。

 ストーリーを単純に言うなら、主人公のおよそ20年の立身伝なのだが、主水正は出世を目指しているのではなく自分のすべきことをするという考え方に基づき、行動する。単純な立身出世の内容ではなく、主水正は時には深く悩み、単純に善悪で区別できない人間、政治を懸命に自分なりに解釈しながら成長していく。

 1000ページを超える長編の中で様々な登場人物がいて、それぞれが主水正の人生に深みを与えていく様にさすが周五郎作品というべき味わい深い人生観が感じられる。その内容は現代でも教訓を得ることができるし、立身伝としての面白さもある。