或る女/有島武郎 1919年 評価:5
美貌と20世紀初期の女性としては確固とした自立した考えを持つ早月葉子は、詩人である木部と恋愛結婚をするが、子を宿したまま離婚。その後、アメリカにいる実業家木村に嫁ぐためにアメリカに渡る船の中で、船の事務長である巨漢で男臭い魅力を持った倉知と肉体関係を持ち、そのまま日本に戻ってきて、倉知の女として生活を始める。
有島武郎の代表作で、リアリズム文学の傑作としての評価もある作品。もう100年以上前の作品なのだが、その当時の女性の扱い、立ち位置というところ以外に古さを全く感じさせない。
とにかく、その時代の女性らしく、男の経済性に頼らないと生きていけないという背景はあるものの、この葉子という主人公は自分の美貌と男を魅了する(そして女からは反感を買う)妖気を十分理解し、利用する。一方で、両家の出であるために生活力が全くない中での、男の気持ちを踏みにじるような考えや計算高い仕草といった葉子自身の気質や、そんな女に翻弄されても拘り続ける弱い男達という構図には、どうにもむしゃくしゃしてしょうがない。一方でそんな気持ちを生じさせるほど、本作品はある意味、人の心を離さないものともいえるのだ。
しかし、自分が中心にいなければ気がすまず、嫉妬深い性格はいつしか狂気に彩られていく。600ページを超える長さだが、物語は主人公・葉子の一人称の形で進み続けるため、その気持ちの移り変わりが非常に丹念に描かれており、人はこういう風に心が壊れていくのかと、空恐ろしい気持ちになる。好きな小説とは言えないのだが、物凄い小説を読んだと思わせる、確かに名作と呼ぶべき作品。