老人と狩りをしない猟犬物語/西村寿行 1981年 評価:4
第二次大戦で戦死した息子の嫁と長年一緒に狩りをしていた紀州犬の隼を巨熊に殺され、さらに孫も重傷を負わされた信州の山深くに住む老猟師。彼はただ一人復讐の機会をうかがうが、彼の前にまだ生後半年を超えたほどの紀州犬が現れる。
発刊は1981年だが、作者本人が冒頭で記載している通り、デビュー前の1965年頃に執筆したものであり、彼のその後の作品の原型となる登場動物がほぼ網羅されている。
主人公である老猟師は頑固一徹であり、宿敵である巨熊、大鷲、巨大猪、そして二代目隼という主要登場動物は擬人化されることはないため、人里離れた山奥の厳しい自然の中で冷徹ともいえる描写が続く。また、敢えて劇的な展開はなくし、死にゆく老猟師の描写も含め至極現実的なストーリー展開。それゆえ、野生動物の気高さや人間の精神の崇高さを感じさせる、なかなかの名作。