武蔵野夫人/大岡昇平 1950年 評価:3


 戦後まもなくの時代。現在の武蔵小金井当たりに住む秋山道子は西洋小説かぶれの大学教師の夫と二人で暮らしていたが、結婚から十年経ち子供はおらず夫婦生活も冷え切ったもの。そんな折、子供の頃に仲が良かった従弟の勉が戦地から戻ってくる。

 今の時代でいえば不倫というカテゴリーにもちろんなるが、道子と勉は肉体関係は接吻以上には一切進まず、あくまでそれぞれの登場人物の心の葛藤が中心の話となる。その心理描写は微細かつ冷静な分析がなされ、だからこそ表面的な色恋だけには全くとどまらない、高尚な文学という印象を強く与える。

 その文章はやはりすごいのだが、描かれた時代がさすがに古いのと、登場人物に魅力的な人物が一切いないため、ちょっと好きな部類には入ってこない。