ロリータ/ウラジーミル・ナボコフ 1955年 評価:3
40歳手前の、ヨーロッパからアメリカに亡命してきた文学者であるハンバート・ハンバートは、住居を探しているときに、候補の家の未亡人である母親の12歳の娘ドロレス(ロリータ)に一目惚れする。その家に同居することになったハンバートは上手いことドロレスは誑し込むが、ある日母親が自動車事故で亡くなる。
ロリータという言葉の意味を「魅惑的な少女」に固定してしまい、「ロリコン」の語源にもなった問題作。その通り、少女趣味をもつ中年男性が主人公なのだが、中身は低俗な性小説ものでは全くない。作者のナボコフは技巧的な小説家として知られており、文体は硬質且つシニカルなユーモアも多く、また作者の博識からくる言葉遊びや比喩表現も散在しており約600ページにわたり一貫した文学的高尚さを持つ。この時代の作品だからもちろん性描写も控えめであって、通俗小説ではなく立派な文学作品である。
外見的な魅力はあっても知性はなくて風俗的なことにしか興味がない現代風のドロレスには万人が魅かれるという魅力はない。しかしハンバートにとっては彼女の総てが崇めるべき対象であり、彼の独白の形をとる文章は自らの心情を精緻かつ知的に表現し、彼のとる行動(ドロレスと二人でアメリカ中を車で旅してまわり、自らの欲望を満たす)の異常さが浮き彫りになる。また、告白が終盤に近付くにつれ、ハンバートの精神に異常がきたされていく様も説得力があり、一人の異常者の生涯を赤裸々に文学的に描いた問題作で傑作。しかし、何分硬い文章が600ページに及ぶので、正直読むのに疲れる。
一方で、本作の文学的価値が高いからこそ、「ロリータ」という言葉が脈々と受け継がれてきたことは疑いようがないだろう。