夜間飛行・南方郵便機/サン・テグジュペリ 1929・1931年 評価:4


 「星の王子さま」が有名なサン・テグジュペリの処女作「南方郵便機」(1929年)と「夜間飛行」(1931年)が収録されている。双方とも郵便飛行士だった作者の経験が生かされた内容で、前者は飛行士の友人を主人公に、彼の恋愛と飛行士としての悲哀が中心に描かれる。後者は飛行場の支配人が部下に厳しく当たりながら郵便飛行という業務の愚直な貫徹を目指すさまが描かれる。

 学生時代にも読んでいるが、「人間の土地」(1939年)の方に断然心動かされ、この2作はあまり記憶に残っていなかったが、初読から30年以上が経過した今では、この2作の良さがわかる。双方ともに、郵便飛行業黎明期における困難な航空路開拓をベースに、パイロットの、勇気や市井で一個人として暮らすことの困難さ、隔離距離を持った仲間意識などが描かれ、その中に人としての尊厳、自然への畏怖を緊迫感とともに感じられる。これは飛行士でありながら奇跡的に文学的な才能があった作者でなければ描けない内容であり、実録的価値と共に文学史に残る傑作だ。