しろばんば/井上靖 1962年 評価:3


 伊豆半島湯ヶ島にすむ小学生の洪作は、曾祖父の妾であったおぬい婆さんと二人で正家と離れた土蔵で暮らしていた。井上靖の少年時代を描いた自伝的小説

 描かれる時代は大正初期。少年時代に持つ気持ちや育った土地の風景など、内容は緻密なのだが、如何せん、私より60年程度昔の時代なので、あまりノスタルジーを感じさせるものではない。

 自伝的内容であり物語性は薄く、馴染みのない田舎の戦前生活のエピソードの積み上げという構成での500ページを優に超える物量なので、正直読み進めるのがきついと感じてしまうのだが、それでも主人公洪作が成長し、一緒に暮らしてきた偏屈なおぬい婆さんが段々と老化して最後は息を引き取るまでの丁寧な流れが、何とも言えぬ人間の普遍的な人生の理を感じさせ、後味は良い。