破戒/島崎藤村 1906年 評価:4


 師範学校を卒業後小学校教員となり、生徒からの信頼も厚い丑松には、穢多出身というだれにも言えない秘密があった。しかし、同じ穢多出身の解放運動家、猪子蓮太郎との付き合い、彼の壮烈な死を目の当たりにし、秘密にしておく気持ちに揺らぎが生じる中、やがて丑松が穢多出身であるという噂が広がり始める。

 1968年生まれの私にとって、いわゆる部落差別の存在は確かに知っていたものの、実感はあまり持っていないというのが正直なところ。まして、現代では当事者やその近傍の人以外はほとんど意識さえしていないのではないか。しかし、まだ部落差別が残っていた明治後期において、本作品の内容はかなり斬新で、合わせて学校の覇権争いなどの醜い部分も描いておりかなりの問題作であったと想像される。

 詩人であった島崎藤村の最初の長編小説になるが、そこに描かれる風景はやはり詩的で、人物描写もなかなか巧みであり、題材だけで注目を集めた作品ではないことはすぐにわかる。一方で、結局丑松が最後にとる行動は「穢多は穢多である」という差別が根底にあるのも事実であり、島崎藤村は何度も本作の改訂版を作成しており、その度に差別的表現を緩めたりしている(現在は改訂版は改悪版と広く認知されており、初版が出版されている)のだが、やはり明治の時代にその時の環境を切り取った作品として、差別的表現が残ってもいいのではないかと思う。それを隠すのではなく、その事実から何を学ぶのかが重要である。小説としての完成度は高く、もう少し島崎藤村の作品を読んでみることにしよう。