嫌われる勇気/岸見一郎、古賀史健 2013年 評価:4


 フロイト、ユングと並び心理学者の三大巨頭と称されるアドラーの思想を、哲学者と若者の会話という形式をとってわかりやすく展開する作品。もともとアドラーは心理学書を書くような人ではないため、本書のような対話形式というのは、今の時代に当てはめてのアドラー思想を展開できるのでとても分かりやすい。

 元々あまり哲学書とかビジネス書に興味がない私だが、話が哲学的で、かつぶれない自分と強い意志を持つボクシングミドル級世界王者村田諒太が読んでいる本として興味をもって読んでみた次第。

 都合の良い解釈をすれば「他人に嫌われたって、人の評価など気にせずに自分の好きなことをやればよい。」となってしまう危険はあるが、それは全く本質を取り違えており、あくまで、自分自身の行動が律されており目標に進み、他人に迷惑をかけないという土台が成り立っての物だ。そういう自分を確立したうえで、自分のいる環境をしっかり理解して「自分がコントロールできるのは自分だけ。他人の評価はコントロールできないのだからそれは課題を分離すべき」と考えるのは非常に有益だ。

 他にも色々とためになる心にささる言葉は出てくる。しかし、その言葉のインパクトに耐えられない人は良い書物とは思えないだろうし、どんな外的要因があろうと自分を変えない方向に思考が行くのだろうと思う。一方で、確かにためになる内容だが、アドラーの心理学も、自分勝手に生きればいいものではないという精神を補足するために「他人貢献」という概念が出てくるが、「他人に貢献しているかどうか」は他人の気持ちにならないとわからないもので、それはある意味「人の評価」を気にすることになり、矛盾がある。

 結局、どんな哲学であろうと完璧なものなどなくて、いくつかを併せて自分にとっての理想を感じることが大事なのだろう。本書には影響を受けるが、やっぱり私はサン・テグジュベリの「人間の土地」の内容も好きなのだ。