蠅の王/ウィリアム・ゴールディング 1954年 評価:4
近い未来、戦争中、疎開地へ向かう子供だけを乗せた飛行機が熱帯地方の無人島に墜落。操縦士は死亡し、数十人の子供たちだけが残された。その中でも年長者(12,3歳か)のラーフとジャックがまとめ役として選ばれ、初めのうちは協力しながら無人島生活を過ごしていたが、ジャックは野生豚を仕留めて仲間と分け合ううちに、自分の権力を感じ始め、次第にラーフと対立の色を深め、ついにはラーフ側についた数人の集団との争いに発展する。
「十五少年漂流記」など、子供たちだけの無人島生活という環境設定は同じであるものの、内容は子供たちの稚拙で、しかも子供らしい残忍さを現実的に描いている。理性が失われた世界、権力の持つ残酷性など、大人社会への警鐘ともとれるかもしれないが、第二次世界大戦が終わって10年も経っていない出版当時ならまだしも、現在ではそれだけでは世界を破滅にもっていくことはできないのは常識で、その側面での重要性はないとは思うが、子供たちならこういう行動になるだろうという小説のために美化していない点で非常に現実的で説得性があり、そのために本作は冒険ものの中でも異彩を放っている。