「黄金のバンタム」を破った男/百田尚樹 2012年 評価:5


 「黄金のバンタム」と呼ばれたエデル・ジョフレを二度破り、世界ボクシング殿堂入りしているただ一人の日本人ボクサーであるファイティング原田を軸に置き、1950年代~60年代の日本のボクシング創世期を振り返ったノンフィクション。

 作者は「永遠の0」の著者でもあるが、「永遠の0」は当時の戦闘員を調べ上げた結果、その内容をかなり不要に織り込んでいるところが多く、私の評では流れが悪い作品として点数は低いが、元々この作者は調べることが好きなのだろう。本作は逆にその探索意欲がストレートに記載できるノンフィクションであり、そのことと私の嗜好の方向性があっているため、非常に面白く読んだ。

 作者自身、大学時代にボクシング部に籍を置き、本作でも繰り返し、当時の世界チャンピオンの貴重さの度合いを述べているとおり、生粋のボクシング好き。私も結構なボクシング・マニアで、ファイティング原田はもちろんのこと、白井義男、海老原、矢尾板など世界チャンピオンレベルの当時の日本人選手のことはある程度知っているし、世界チャンピオンのあり方など、作者と共感する部分が多い。

 本作は当然ボクシングの話が中心なのだが、ちょうど高度成長期だった日本がなぜそれほどまで(世界戦の視聴率が軒並み50%超えなど)ボクシングに熱狂したのかという時代も描写し、昭和の時代史としても面白いし、マニアである私でも、なぜ日本人の希望であり、物腰も柔らかな白井義男がボクシングジムを開かなかったのか、海老原が世界チャンピオンになれなかったのかなど、新しく得た知識も多く、作者の性格がいい方向で生かされた上質のノンフィクションであると思う。